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ビジネスパーソンの読解力 AI時代の最重要スキルを鍛える

ビジネスパーソンはこれからどんなスキルを鍛えるべきでしょうか。

敵の弱点を突くのが戦略の鉄則だとすると、答えは読解力になります。なぜならば、2024年から2034年の間にわれわれの仕事の半分を奪うと予測されているAI(人工知能)[1]こそがビジネスパーソンの最大の敵であり、そのAIが最も苦手としているのが読解力だからです。

本稿は、ビジネスパーソンがAI時代を生き抜くための最重要スキルである読解力の鍛え方について、わかりやすく説明していきます。

[1] C.B. Frey & M.A. Osborne(2013), The Future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?, Oxford Univ.


1.今なぜ読解力なのか?

ビジネスには様々なスキルが求められますが、その中でこれから最も重要になると考えられるのが読解力です。

読解力が注目されるのには2つの理由があります。一つがAIの進化で、もう一つが日本人の読解力の低下です。つまり、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ということです。

AIの進化と限界
AIがどこまでわれわれの仕事を奪うかは神様にしかわかりませんが、大きな影響を与えることは確実です。また、新型コロナウィルスがもたらす新しいライフスタイルがAIにとっては追い風、人間にとっては逆風となるのも間違いないでしょう。

仮想敵としてのAIについては国立情報学研究所の新井紀子教授の研究成果が参考になります。新井教授は2011年に「ロボットは東大に入れるか」というAIのプロジェクト(通称東ロボくん)を立ち上げました。

このプロジェクトが重要なのは、ルールが明確な科学計算や囲碁・将棋などと違って、試験がターゲットとなっている点です。文章を読んで問いに答えるという試験は、ビジネスの現場に近いと言えるからです。

2013年のセンター試験模試でデビューした東ロボくんの偏差値は45でしたが、そこから学力を伸ばして、2016年には偏差値が57.1となり、MARCHに合格するレベルに到達しました。また、東大入試模試では数学の偏差値が76.2(トップ1%)、世界史の600字以内の論述問題でも偏差値が61.8というスコアをたたき出したのです。

一方で、この過程でAIの弱みも明らかになってきたのです。試験を通して見えてきたAIの弱点は、(1)常識、(2)読解力、(3)柔軟性、(4)発想力の4つです。

このうち、常識は人間が共有しているものなので、人間の独壇場です。柔軟性も機械と比べたときに顕著な人間の特性です。発想力については、1を100にすることはAIにできても、0を1にするのは人間だけです。また、発想力の有無というのは相対的なものなので、0を1にするような発想力の豊かな人は定義上いつも少ないことになります。

そうすると、この4つの中で打倒AIの鍵を握る能力は読解力になることがわかります。

なぜ読解力がAIの弱点かというと、AIには文章の意味がわからないのです。AIが文章を読むというのは、確率と統計を使って情報を処理しているだけなのです。

例えば、(a)アビガンがウィルスを殺した、(b)アビガンがウィルスに殺された、という2つの文を見ると、(b)が間違っていることはすぐにわかります。常識として意味がおかしいからです。ところが、(a)も(b)も文法的に正しいので、AIがこの正誤を判断することは難しいのです。

こんな簡単な文も読めないAIに勝つのは簡単なように見えますが、そうとも言えない不都合な現実が明らかになりつつあるのです。

日本人の読解力
AIに対抗する日本人の読解力を見てみましょう。

OECDが2013年に実施した国際成人力調査(PIAAC:16歳から65歳の労働人口が対象)によると、読解力の部門で日本は第1位でした。ところが、同じOECDによる学習到達度調査(PISA:15歳が対象)の読解力では芳しい結果を得られていません。特に2003年に14位となったときは、ゆとり教育によるPISAショックと呼ばれて話題になりました。

その後2012年に4位まで持ち直しますが、2018年は再び15位に沈んでいます。この結果から、日本人の読解力については若年層に注目する必要があることがわかります。

日本の若年層の読解力については、東ロボの新井教授が2011年に実施した「大学生数学基本調査」[2]が契機となって実証分析が行われています。

非常に簡単な問題にも苦戦する大学生を見て、「数学ができないのではなくて、そもそも問題文が読めていないのではないか」という仮説を立てた新井教授は、ちょうど東ロボくんの読解力をつける挑戦をしていたので、若年層の基礎的読解力を評価するRST(リーディング・スキル・テスト)を開発したのです。

RSTは教科書に出てくる短文が正確に読めるかを問うテストで、受講者は延べ18万人を超えています。どのような問題かというと、例えば次のようなものです。

(問い)
Alexは男性にも女性にも使われる名称で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は(   )である。
(1)Alex、(2)Alexander、(3)男性、(4)女性

正解が(1)であることは明らかだと思うのですが、中学生の正解率は38%、高校生の正解率は57%という結果なのです。残念なことに、若年層の読解力はAI並みと言ってよいかもしれません。

日本人のビジネスパーソンの読解力は世界的に見ても武器だったのですが、これからは安心できないということになりそうです。近い将来、会社の主戦力となるのはこのような若者たちなのです。そのときは先輩として部下の読解力を指導できるようになっておく必要があると思います。

[2] 新井教授が日本数学会の教育長として全国48大学の6,000人の1年生に対して実施した。


2.読解力とは何か?

読解力を鍛えるためには、そもそも読解力とは何か、ということについての理解を深める必要があります。

「読む」というのは、文章の内容を頭の中に再現することです。専門用語を使うと、頭の中に表象[3]を作り上げるということになります。書き手の言いたいことを読み手の頭の中で再現する、と言ってもよいでしょう。

そのために頭の中では様々な技法やアプローチが活用されています。代表的なものを挙げてみましょう。

読解の基本技法
文章を読むときには、主に次のような基礎技術が使われています。

・語彙力
・係り受け解析
・照応解決

語彙力は言葉の意味がわかっているかということです。当たり前のことですが、書いてある言葉の意味がわからなければ文章は読めません。語彙力については3つの要素に分解することができます。

第1に、キーワードです。文章のトピックに関連する言葉で、典型的には専門用語です。例えば、マーケティングに関する文章を読むときに「セグメンテーション」という言葉を知らないと具合が悪いことになります。ビジネスの文章を読むためには、ビジネスの理論に基づいた専門知識が求められます。

第2に、機能語(文法的機能のみで意味を持たない語)です。特に文章の相互の関係(順・逆説、累加・並立、選択、説明・補足、話題転換)を司る接続語(しかも、もしくは、etc.)を正確に捉える必要があります。

第3に、語義の曖昧な言葉です。「検討する」といった場合、いつまでに何をどのように行うことを意味するかは文脈によってケースバイケースです。「はんなり」のように京都人にしかニュアンスがわからない言葉もあります。

係り受け解析は、主語と述語の関係や修飾語と被修飾語の関係のように、文の基本構造を理解します。文における意味の最小単位を命題と言いますが、命題同士がどのように関係しあっているかを判断するわけです。

例えば、「赤銅色のトランぺッターを見た」という文の場合、「赤銅色」が「トランぺッター」に係り、「トランぺッター」は「赤銅色」を受けます。また、「見た」は省略されている主語の「私」を受けます。

私は日焼けをしたトランぺッターを見た、という意味になります。これが「赤銅色のトランペットのプレイヤーを見た」という文になると、赤銅色がトランペットに係るのか、プレイヤーに係るのかが曖昧になるので、悪文ということになります。

照応解決は、「それ」「このように」などの指示詞が何を指すかということです。指示詞が使われるのは、同じ内容をより少ない文字数で表現できて文章が効率的になるからです。指示詞が何を指すかがわからなければ、正確に文章を理解することはできません。

英語では”She’s done it.”のように指示詞で主語(She)と目的語(it)を表しますが、日本語は省略が可能です(「やりました」)。このため、日本語の照応解決には注意が必要になります。

意識しようがしまいが、われわれはこのような技法を駆使しながら文章を読んでいるのです。

文章を読むアプローチ
単語の意味を理解し(語彙力)、指示詞を押さえ(照応解決)、命題同士のつながりを把握する(係り受け解析)ことで文章を読むことができます。

実際の文章では命題と命題の関係はいつも明確に示されているわけではないので、その関係を推測する必要があります。また、命題が省略されることもあるので、その場合は、命題と命題の関係を推論して構築する必要が生じます。このように考えると、文章を読むというのは結構な知的作業と言えるのです。

このような読み方をボトムアップと呼びます。

これに対して、われわれはトップダウンの読み方もしています。トップダウンというのは、文章のテーマについての全体像を参照しながら読むというアプローチです。専門用語を使うと、スキーマ(枠組み)を活用するということです。

地図を見ながら目的地に向かうようなもので、具体的には、自分のよく知っているテーマだったらスラスラ読めるという現象です。

文章を読むというのは、前に書いてあることと今書いてあることをつなげながら全体像を明確にしていくという作業なので、手掛かりとなる全体像を予め持っていると、前後関係の推理が容易になって文章が読みやすくなるというわけです。

したがって、文章のテーマについての経験や理論的知識は読解力にとってプラスに働くことになります。

また、文章を読んで理解しようとする場合、書いてある個別具体的な情報(ミクロ命題)をすべて覚えることはできないので、重要な情報だけを取捨選択し、それらをまとめて抽象化したマクロ命題を作るという作業を行います。

文章を読んだ後にわれわれの頭の中に残るのはこのマクロ命題です。「要するにこういうこと」というやつです。このような抽象化には、当該テーマに関するしっかりとした「ものの見方」を持っていると有利になります。

極端な例ですが、隣人から「おなかが重くて、目がかゆい」と体の不調を訴えられたとしましょう。使われる言葉は日常語なので、まったく難しくありません。しかし、医学的見識のないわれわれがそこから病名というマクロ命題を導くことは困難でしょう。

したがって、ビジネスのプロとして確かな理論的知識を身に付けておくことは読解力においてもMustなのです。

クリティカルシンキング
ビジネスの現場では、書き手の言いたいことを理解するだけでは文章を読めたとは言えません。

書いてあることは本当なのか、どこまで妥当性があるのか、ということが判断できて、はじめて読めたと言えるのです。書いてあることを理解するのがステップ1だとすると、その妥当性を評価するステップ2こそがビジネスのプロの読解力ということになると思います。

ステップ2の読解力については、必要な情報はすべてカバーされているか、情報のソースは確かか、推論は適切に行われているか、仮説はどこまで検証されているのか、どのようなパラダイム(ものの見方、理論)に基づいているのか、といったクリティカルシンキングのスキルが必要になります。

これに関してプロが犯しがちなミスは、自分が文章を読めてしまうので、他人の読解力に関する問題をステップ2の問題と捉えてしまうことです。

しかし、新井教授の教えに従えば、ステップ2のクリティカルシンキングの能力を疑う前に、ステップ1の基礎的読解力を疑うべしということになります。基本的な読解ができないのに、クリティカルシンキングができるはずがありません。

なお、本稿は基礎的な読解力にフォーカスしているので、クリティカルシンキングについては別の記事を参照してもらえればと思います。

[3] 表象は対象に関して心理学的過程を経て抽出された情報を長期記憶に保持するための心的形式の総称(心理学辞典、有斐閣


3.読解力はどのようにして形成されるのか?

それでは読解力はどのようにして形成されるのでしょうか。この問題についての理論的な研究は教育心理学者に任せるとして、ここでは実践的な観点から考えてみたいと思います。

実践的に見た場合、われわれの読解力の形成には次の3つが大きく関わっていると考えられます。

(1) 板書
まず、新井教授が著書の中で語っている「板書を写すのが遅い生徒は、文書の意味を理解していない可能性が高い」という指摘に注目したいと思います。板書を写すことと読解力の間には強い関係があることが推定されます。

例えば、次の4つの板書を写すとしましょう。

(ア) 昨日は日比谷で映画を見てから、コンビニでビールを買って家に帰った。
(イ) βは市場とその株式の共分散を市場の分散で割ったものである。
(ウ) 夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場
(エ) コ世迫ス最クに1う産た。

(ア)は簡単にできますが、(イ)は文字数に差がないにもかかわらず(ア)より時間がかかるはずです。その理由は、(ア)は日常語で書かれた身近な内容であるのに対して、(イ)は、日本語としては理解できるものの、ファイナンスの専門用語で書かれているので意味がよくわからないからです。

(ウ) は文字数が少なく、専門用語も使われていません。それでも、(ア)のようにスムーズに書くことはできなかったはずです。それは、文が伝えようとしている意味がよくわからないからです。(これは森瑤子の小説のタイトルです)

(エ)は最も短い文であるにも関わらず、写すのに最も手こずるはずです。意味不明の文を写すがいかに大変かがわかります。(これはコロナに関する新聞記事を12文字ごとに拾ったものです)

ここからわかることは、読めないと書けないということです。板書を写すためには、文の意味を理解しなければならないのです。さらに、文の意味を理解するためには、テーマについての理解が求められるのです。

(イ)の文を例に挙げると、「共分散」などの専門用語を知らないと文の意味がわかりません(語彙力)。さらに、テーマについての知識がないと「その株式」の「その」が何を指すのかもわからないはずです(照応解決)。また、「市場」が何の市場かもわからないでしょう。

したがって、板書を写すという行為は、書いてあることをコピペするという単純作業ではなくて、文章を読んで理解するという極めて知的な作業であることがわかるのです。

逆に言うと、(ア)のようにスラスラと板書を写せるのは知的な作業ではないということです。(イ)についても、ファイナンス理論に通じていれば、概念がわかっているので、(ア)よりも楽に写すことができます。

したがって、苦労しながら板書を写しているときに、われわれの知性の地平線が広がり、読解力が向上することになるのです。

日本の場合、少なくとも一昔前までは、小学校の1年生から高校3年生まで、来る日も来る日も板書を写してきたわけです。板書を写すことによって、新しい概念や知識を身に付けるだけでなく、読解力も営々と磨いてきたわけです。これが世界1位の読解力を支えていたと考えられるのです。

ところが、板書を写すというのは「創造的ではない」、「時間の無駄」などと世間の評判が悪く、最近は予め用意されたプリントの中の(  )にキーワードを記入するスタイルが主流となっているようです。同じタイミングで日本の若年層の読解力が低下しているという事実は、板書を写すことと読解力の間に因果関係があることを示唆しているように思えます。

(2) 英語
次に、英語の学習が挙げられます。「外国語を知らない人は自国語についても無知である」というゲーテの言葉ではないですが、われわれが言語としての日本語を意識するのは英語を始めてからだと思います。

母語に対しては、殊更に係り受け解析や照応解決を意識しないものです。ところが、英語では、「この文の主語は3人称単数だから動詞にsが付いているはずだ」、「themだから、単数のbookは指していないはずだ」、「whichの先行詞はどれか」というような問題ががすぐに生じます。

英語を勉強すると、係り受け解析や照応解決について否応なしに鍛えられていくことになるのです。

英文法と英文解釈に力点を置いてきた伝統的な英語教育は、「中学校から大学まで10年近く英語を勉強しても、まったく話せない」と評判は散々でした。しかし、そのお陰で読解力が鍛えられたことは否めないと思われます。

グローバルリゼーションにおいて英語のコミュニケーションが重要であることは間違いありません。しかし、会話レベルにおいてはそれこそAIが代役を務めてくれそうな勢いです。また、実務家としては契約書の英語には手を焼くものですが、AIにとっては一定の形式を有する契約書の翻訳の方が却って簡単だったりもします。

やはり勝負は英語ではなくて、読解力になるのではないでしょうか。

(3)朱入れ
最後に、これは絶滅した慣行ですが、朱を入れるということを挙げます。つまり、上司による添削です。アナログ世代にとって会社の文書というのは手書きでした。そして、手書き文書と朱入れは切っても切れない関係だったのです。

当時の風景がどのようなものだったかというと、文書を作成した担当者はそれを係長に見せます。それを読んだ係長が朱を入れます。だいたい真っ赤になって返ってくるのがお決まりです。その指示に従って文書を書き直して、それを課長に提出します。そこに課長が再び朱を入れます。

こうして最終版を完成させて、関係部署にハードコピーを配布するのです。係長が修正したところに課長の朱が入って、オリジナルに戻ったという笑い話もよくあったものです。今から見るとなんとも効率の悪い仕事振りです。

しかしながら、若手担当者にとって朱を入れられることがトレーニングになったのは確かです。少なくとも、辻褄の合わない文章を書けば必ず朱を入れられるので、文章と格闘することを余儀なくされたからです。それによって若手の読解力が鍛えられたことは間違いないでしょう。

スピードが勝負の今の時代にこんな悠長なことはやってられません。しかし、意図したかどうかは別として、アナログ時代は先輩が部下の読解力を鍛えていたということは間違いありません。デジタル時代に部下の読解力をどのようにして指導するか、これは先輩として真剣に考えなければいけない課題と言えるでしょう。


4.読解力の鍛え方

それでは、読解力を鍛えるためにはどうしたらよいでしょうか。新井教授は、「読解力の向上にはダイエットのような簡単な処方箋はないのです」と言ってます。恐らくはその通りなのでしょうが、それでは身も蓋もないので、ここでは2つの方法を提案したいと思います。

(1) 英語を読む
読解力向上のために、先ずお勧めしたいのが英語を読むということです。英語を読めば、嫌でも係り受け解析や照応解決を考えなければなりません。このような基礎練習は日本語でもできるはずですが、母語であるだけに却って難しいという面があります。

解説が充実した英文解釈の参考書がよいことは間違いありませんが、面白くなければ嫌だという人情を無視するのも愚かなことです。そこで、自分が興味を持っているテーマに関する英文を読むのがよいと思います。英語が苦手という人も、自分が得意だったり、好きなテーマであれば、トップダウンのアプローチが活用できるからです。

実践の具体例を挙げると、自分が興味を持っているテーマについて、英文のWikipediaを見るという手があります。あるいは、Wikipediaで何かについて調べるときに、ついでに英語版も見てみるのです。Wikipediaの英文は、構造が単純な短文で書かれているので、比較的読みやすいという利点があります。

板書から類推すれば、読解力のためには短い文章をしっかりと読み込むことが重要です。そういう意味において、Wikipediaは読解力のトレーニングのお手軽な相棒となります。また、日本に固有の記事以外は、英語版のWikipediaの方が内容的に充実しているので、日本語版よりも面白いというオマケもあります。

もう一つは、Kindleで英語の本を読むというやり方です。トップダウンのアプローチをフルに活用するのであれば、日本語訳で読んだ本のオリジナルをKindleで読むのです。愛読書というのは何回も読むものです。たまには英語で読むのも悪くないものです。

Kindleの強みは、英単語の和訳が表示されるので、知らない単語を辞書で引くという面倒な作業から解放される点です。一昔前から考えると夢のような話です。

WikipediaもKindleも英語のトレーニングではなくて、読解力のトレーニングなので、意味がわからなくてもそれほど問題ではありません。鍵を握るのは、文章をじっくり読むという姿勢なのです。それについて、先に挙げた下記の問題をもう1度見てみましょう。

Alexは男性にも女性にも使われる名称で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
Alexandraの愛称は(   )である。
(1)Alex、(2)Alexander、(3)男性、(4)女性

中学生で正解の(1)よりも多かった回答が(4)だったのですが、大人でも(4)を選ぶケースが少なくないのです。実際に新井教授の愛弟子の博士も(4)と答えたとのことです。

もちろん、当人も正解を示されると、それについての異論はなく、「なぜ自分は(4)を選んでしまったんだろう」となったそうです。真相は謎ですが、プリントのキーワード読み、スマホのスワイプ読みが原因というのが新井教授の見立てです。

したがって、文章をじっくり読むという姿勢を取り戻せば、読解力は回復するということが言えそうです。英文は母語のようにはいかないので、じっくり読まざるを得ません。これが読解力向上のために効果を発揮するポイントになるのです。

(2) 高校の数学の教科書を読む
英語はどうしても嫌だと言う人もいることでしょう。そういう人には、高校の数学の教科書を読むという手が考えられます。

読解力向上のポイントは、短文をじっくり読む姿勢を身に付けることにあります。一方、通常の日本語の短文ではどうしても読み飛ばしてしまいます。スマホ読みをしてしまうということです。また、長文にチャレンジするという手も考えられますが、短文が読めないのに長文が読めるはずがありません。

そうすると、高校の数学の教科書が有力な候補になるのです。なぜならば、数学は教科の中で最も抽象度が高いので、飛ばし読みができないからです。

高校の数学の教科書の文章は、ほとんどが30文字以内の短文で構成されています。専門用語以外は平易な日本語が使われています。そして、初出の専門用語には必ず説明がされます。そして、ある概念が説明されると、それに基づいて次の概念へと発展していくので、それを追いかけて読み進めていくことになります。

したがって、読解力のトレーニングの材料としては申し分がないと言えるのです。例えば、数研出版の数学Ⅰの「実数」についてのセクションを見ると、整数の定義の説明から始まって、有理数、無理数と説明が展開されて、最後に実数とは何かという結論が次のチャートでまとめられます。

クリティカルシンキングでピラミッドストラクチャーやMECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive:モレなくダブリなく)がやたらと強調されますが、そんなことはすでに高校1年生のときに学んでいるわけです。

高校生の時は数学のテストで点を取らなければならないので、スコアメイクを目標に数学に取り組んでいたと思います。そのために、解答のテクニックに走って、教科書を読むという姿勢ではなかったと思います。

ビジネスパーソンは数学のテストを受ける必要はないので、教科書を読み物として楽しむことができます。そうやってストレスフリーで読むと、数学を毛嫌いする理由はないことがわかるはずです。

英語と数学の教科書以外にも読解力を鍛えることができる読み物はあるでしょうから、自分に合った読み物を見つければよいと思います。ただし、小説や漫画は読解力のトレーニングには向いていないので注意が必要になります。

文章には説明文と物語文という2つのタイプがあります。ビジネスに必要なのは説明文で、小説や漫画は物語文ということになります。

物語文とは、物語構造という一定の型を持つ文章を指します。物語構造は、設定(登場人物、場所、時間)、主題(解決すべき課題)、筋立て(解決方法)、解決(エンディング)というあらゆる物語に共通する構造のことです。

これはわれわれが日常生活を把握する枠組みでもあります。そのため、人間は幼少期から物語構造に慣れ親しんでいます。その結果として、われわれは物語文を読むときはトップダウンの読み方ができるようになっているのです。

これに対して、抽象的な内容を伝える説明文は、テーマに関する経験や理論的知識がないとトップダウンで読むことはできないのです。

そのため、小説が大好きだからといって、ビジネス文書が読めるとは限らないのです。小説も様々で、三島由紀夫の小説を読むと読解力が必要だと感じます。しかし、それがビジネスで求められる読解力と少々違うことは実感できるはずです。

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5.まとめ

AIがわれわれの仕事を奪うリスクが明らかになってきた中でどのような知的武装をすればよいかは大きな課題となっています。敵の弱点を突くという戦略の鉄則に従えば、その答えは読解力ということになります。

日本のビジネスパーソンの読解力が世界レベルにあることは間違いありませんが、それを支えてきた板書と朱入れという伝統的アプローチが絶滅してしまったので、将来的には安心できない状況だと言えます。

スマホのスワイプ読みやキーワード読みに慣れ親しんでいると、ビジネス文書を正確に読む読解力が知らず知らずのうちに劣化します。そのため、短い説明文をじっくり読むことが効果的なトレーニングとなります。日本語はわかっているわけですから、鍵を握るのは「じっくり読むという姿勢」にあります。

じっくりと読む姿勢を身に付けるためには、英語を読む、数学の教科書を読むことが有効と考えられます。

文章を読むときは、命題同士のつながりを把握して意味を理解するボトムアップのアプローチと、テーマに関する全体像を参照しながら理解するトップダウンのアプローチがあります。

トップダウンで読むためには、テーマに関する経験や知識が必要になります。したがって、ビジネスの文章を読むためには、ビジネスの理論的知識を身に付ける必要があります。

参考文献
・新井紀子(2018)『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社.
・新井紀子(2019)『AIに負けない子供を育てる』東洋経済新報社.
・犬塚美輪(2020)『14歳からの読解力教室:生きる力を身につける』笠間書院.
・大村彰道監修(2001)『文章理解の心理学: 認知,発達,教育の広がりの中で』北大路書房.

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