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〔ポジティブ心理学〕ワークエンゲージメント とは?その効果と高め方

「日本は、『熱意あふれる社員』の割合が6%しかない」

今年5月、米国のギャラップ社が発表した世界各国の働く人たちの「エンゲージメント調査」の結果について、日本経済新聞ではこのような表現で報道されました。

最近、人材開発の分野で「エンゲージメント(Engagement)」という言葉をよく耳にします。詳しくは後述しますが、「会社や仕事に対する愛着心」といった意味で使われることが多いようです。働き方改革による従業員の生産性向上の必要性が高まる中、従業員のエンゲージメントレベルを上げることが、重要な解決策として注目され始めているのです。

しかし、「エンゲージメントレベルを上げる」と言っても、何をどうすればよいのでしょうか。

  • エンゲージメントの高い人とは、具体的にどのような人のことを意味し、その「高い低い」はどのように測定するのか
  • エンゲージメントが高いと、私たちや組織にとってどんなよいことがあるのか。
  • 働く人のエンゲージメントを高めるには、何をどうすればよいのか。

こうした課題について、国内外の人事コンサルティング各社は、それぞれの視点から掘り下げ、さまざまな具体策を提示しています。

「ポジティブ心理学」シリーズ第1弾では、ポジティブ心理学の創設者であるセリグマン教授が提唱するPERMAモデルの1つの要素として、「エンゲージメント(Engagement)は没頭すること」とごく簡単にご紹介しました。

今回は、仕事の場面に特化した「エンゲージメント」について、ポジティブ心理学の観点から、詳しく考えていきたいと思います。


1. ギャラップ社の「エンゲージメント調査」

冒頭のギャラップ社の調査結果については、「6%」や「139カ国中132位」といった数字だけが独り歩きしている観も否めません。
まずはこのギャラップ社の調査内容、及びポジティブ心理学との関わりについて、概観しておきましょう。

1-1. ギャラップ社の調査内容

ギャラップ社の資料(英語)によると、この調査は、以下の12問に対して、1点(全く満足していない)から5点(きわめて満足している)の5択、あるいは「わからない、あてはまらない」(0点)で回答するというものです。

  1. 自分が仕事で何を期待されているか理解している。
  2. 自分の仕事を適切に行うのに必要な資料や備品を持っている。
  3. 職場で、自分が最も得意なことをする機会が毎日ある。
  4. 過去7日間の中で、よい仕事をしたと認められたり褒められたりした。
  5. 上司または職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれているようだ。
  6. 職場で、私の成長を促してくれる人がいる。
  7. 仕事において、自分の意見が尊重されているようだ。
  8. 会社の使命や目的が、自分の仕事が重要なものであると感じさせてくれる。
  9. 同僚たちが質の高い仕事をしようとコミットしている。
  10. 職場に親友がいる。
  11. 過去半年の間に、職場の誰かが私の成長度合いについて話してくれた。
  12. 過去1年の間に、仕事で学び成長する機会があった。

回答の合計点数に応じて、「エンゲージしている」(日経新聞の表現では「熱意あふれる社員」)、「エンゲージしていない」(同「やる気のない社員」)、「積極的にエンゲージしていない」(同「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」)の3つに分類されているようです。

1-2. 12問の背景にある考え方

上述のようなたった12問への回答で、私たちのエンゲージメント度合が測れるのか、という疑問を持たれるかもしれません。しかしこの12問は、長年にわたる心理学の科学的な調査研究の結果が凝縮されたものなのです。

1969年、米国ネブラスカ大学リンカーン校で「強み」をベースとする心理学の研究をしていたドナルド・クリフトン博士は、SRI(Selection Research, Inc.)という調査機関を設立して、ビジネス界で成功する個人や組織の研究を開始。人々が能力を発揮して成果を出す環境作りに寄与する要素は何かを探求しました。

1988年にSRIがギャラップ社と合併して、その研究成果を元に具体的な調査手法(質問票)を開発し、世界中の企業で調査分析を繰り返し行って、質問票に磨きをかけていきました。その結果が、上述の12問なのです。

12問の基本的要素として織り込まれたのは、「組織における能力の最大化の理論」、つまり以下の方程式です。

1人当たりの生産性=能力×(人間関係+適切な期待+承認・褒賞)

この方程式に照らすと、12問それぞれがどの要素を測ろうとしているか、大体想像がつきます。例えば、5・9・10は正に「人間関係」に関する質問です。1・6・11は「期待」、4や7は「承認・褒賞」について、自分に寄せられていると感じる度合いを測定しているのだと思います。

「期待」も「承認・褒賞」も、人との関わりの中で生まれるものですから、ギャラップ社はエンゲージメントの源として人間関係を重視しているとみなすことができます。

人間関係と直接関係のない、少し異質な質問が3と8です。
3は「強み」についての質問です。8は「目的」、つまり「何のために」自分がその仕事をやるかという、仕事の意味、意義を問うています。ポジティブ心理学でも、PERMAモデルの「M=Meaning(意味、意義)」を「Purpose(目的)」と表現することがままあります。

つまりエンゲージメントを高めるには、「人間関係」「強み」「意味、意義」に働きかけることが重要、という見方ができます。これらは、まさにポジティブ心理学が人の幸せに資するとしている要素と一致しています。

「エンゲージメント」の意味は、単に「熱意がある」というような一言だけで言い表せるものではないと思います。


2. シャウフェリ教授の「ワークエンゲージメント」

クリフトン博士やギャラップ社とは別の流れとして、シリーズ第1弾でもご紹介したように、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・シャウフェリ教授は、「ワークエンゲージメント」という概念を明確に定義し、それを測定する調査方法を確立しています。

2-1. ワークエンゲージメントの定義

もともとシャウフェリ教授は、労働・組織心理学者として、いわゆる「燃え尽き症候群」の研究を行っていました。しかし、ネガティブな症状ではなくポジティブな状況に着目するというポジティブ心理学の考え方に基づき、「燃え尽き」と相対する「ワークエンゲージメント」についても掘り下げていったのです。

彼が定義する「ワークエンゲージメント」は、次の3つのキーワードから成り立っています。

  1. 活力(Vigor):高いレベルのエネルギーやレジリエンス(逆境から素早く立ち直る力)、仕事に進んで努力を注ごうと思う気持ち、困難に直面しても粘り強く頑張ること。
  2. 献身(Dedication):仕事にしっかりと取り組むこと、意義、熱意、創造的刺激、誇り、挑戦を体感すること。
  3. 没頭(Absorption):仕事に完全に集中、没頭し、時間があっという間に過ぎ、仕事と自分自身を分離するのが困難なほど一体感を感じること。

3番目の「没頭」は、シリーズ第1弾でご紹介した「フロー(Flow)」と同義です。

一方、1番目の「活力」という点からは、単に自分の好きなこと、興味のあることに没頭するだけでなく、困難にもめげずに立ち向かう姿勢が感じられます。

また2番目の「Dedication」は「熱意」と訳されることが多いようですが、本来の意味は「献身、身をささげること」です。自分以外の人のため、自分を越えたもっと大きなものに意義を見出し、使命感を持って従事するというニュアンスが表れています。

シリーズ第1弾で、エンゲージメントの意味を「ある活動に対して自ら能動的に関わり、それ自体を楽しみ、没頭すること」とお伝えしました。働く上でのエンゲージメントは、これにいくつかの言葉を追加したほうがいいようです。すなわち、「社会にとって意味があり、自分として誇りを持てる活動に対して自ら能動的に関わり、それ自体を、一時的な困難に屈することなく努力することも含めて楽しみ、没頭すること」という感じでしょうか。

2-2. ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度

シャウフェリ教授が開発した測定尺度のうち、最も簡易なものは9つの質問から成っています。かっこ内に記載したように、それぞれが上述の3つのキーワードに紐づけられています。

  1. 職場では、エネルギーが満ち溢れるように感じる。(活力)
  2. 職場では、元気が出て精力的になるように感じる。(活力)
  3. 私は自分の仕事に熱心である。(献身)
  4. 私の仕事は、私に創造的刺激を与えてくれる。(献身)
  5. 朝目覚めると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる。(活力)
  6. 一生懸命仕事をしているとき、幸せだと感じる。(没頭)
  7. 自分がやっている仕事に誇りを感じる。(献身)
  8. 私は自分の仕事にのめり込んでいると思う。(没頭)
  9. 仕事をしていると、ノリノリな気分になる。(没頭)

各質問に対して、0(全くない)~6(いつも感じる)まで7段階で点数をつけます。合計54点満点で、38点(平均4.2点)より高いと「エンゲージメントが高い」、28点(平均3.1点)より低いと「エンゲージメントが低い」、と診断されます。

ちなみに2010年に東京大学の島津明人准教授(当時)が16カ国で行った調査では、日本人は平均3点弱と、他の15カ国より断然低かったそうです。

この傾向はギャラップ社の調査と共通しています。両方とも、海外の調査項目を日本語訳して実施しているため、言葉のニュアンスが日本人にとって若干違和感があるせいで数値が低くなる、という指摘もありますが、いずれにしても、日本のビジネスパーソンの多くは、他の国の人々に比べてワークエンゲージメントが低いことは否めないようです。

なお、アメリカの心理学者で、フロー理論を提唱するチクセントミハイ教授によれば、人間は自分の強みを発揮しているときに最もフロー(時の経つのも忘れて没頭している状態)を感じるといいます

また、「ポジティブ心理学」シリーズ第4弾でご紹介したように、「強み」の特徴を表す3Eのひとつである「エネルギー」とは、「活力」に他なりません。つまりワークエンゲージメントの3つのキーワードのうち「没頭」「活力」には、「強み」が大きく関係していると言えます。

また、「献身」は、誰か他の人の存在、つまり「人間関係」を前提にしているとともに、その行為に「意義」があると感じられるからこそ行えるものです。

つまり、シャウフェリ教授がワークエンゲージメントを定義する際に掲げた 「活力」「没頭」「献身」を分析すると、ギャラップ社の調査項目に関する考察同様に、ポジティブ心理学のキーワードである「人間関係」「強み」「意味、意義」という要素が見えてくるのです。


3. エンゲージメントを高めるには

2種類のエンゲージメント調査の中身に鑑み、エンゲージメントの構成要素は、大きく「強み」「人間関係」「意味、意義」の3つにまとめることができることを確認しました。

次に、これら3つの観点から、エンゲージメントを高めるにはどうしたらよいのかを掘り下げて考えてみましょう。

3-1. 強み

ギャラップ社の「能力最大化の理論」の方程式にある「能力」を「強み」と読み替えれば、生産性向上の鍵を握るのが「強み」であることは明らかです。どんなに人間関係や期待の値が高くても、「強み」の項がゼロなら答えはゼロ、なわけですから。

強みを発揮することは、生産性向上という組織にとってのメリットはもちろんのこと、私たち自身がそれに没頭して充実感を感じることができるという、個人にとってのメリットもあります。

強みをいかに発揮させるかについては、シリーズ第4弾で詳しく述べたとおりですので、ぜひそちらをご覧ください。そちらに記載したように、私たちは自分の「強み」を発揮しているとき、一番充実感を感じ、時間が経つのも忘れてそのことに没頭する、つまりエンゲージしていると言えます。

3-2. 人間関係

ギャラップ社の方程式によれば、「能力(強み)」と同様、「人間関係」もエンゲージメント向上に不可欠な要素です。

そもそも「人間関係」は、セリグマン教授が提唱するPERMAモデルの「R=Relationship」そのものであり、社会的動物である人間が生きる上で、あらゆる意味において他者の存在は必要不可欠なものです。

しかし、働く上でのエンゲージメントを考える場合、「人間関係」はさらに重要な意味を持ちます。なぜなら、単に良好な関係を保てばいいというだけでなく、そうした関係を結んだ相手からの「期待」と「承認・褒賞」という具体的な行動が、私たちのエンゲージメントを上げる鍵を握るからです。

それでは、リーダーの立場から考えた場合、部下との人間関係を構築するには具体的にどんな行動をとればいいか、簡潔に整理しましょう。

なお、リーダーと部下の人間関係構築そのものに関しては、本ブログサイトの「リーダーになるすべての人に知って欲しい部下のモチベーションを上げる方法」に詳しく掲載されていますので、合わせてご参照ください。

①明確な目標とその達成期限を決めて、実行させる

  • 上述の「期待」とは、具体的には目標のことです。ここでの留意点は、一方的に目標を与えるではなく、部下が「自分自身で決めた」と腹落ちできるよう、しっかり話し合うことです。自ら能動的に行動する重要性は、「ポジティブ心理学」シリーズ第2弾で述べたとおりです。
  • また、半年、1年単位で達成すべき目標の場合は、途中で息切れしたりやる気が減退せずにプチ達成感を味わえるよう、途中でマイルストーンを設けることも不可欠です。
  • 部下が実行途上で悩んだりつまづいたりしたら、いつでも相談に来られるよう、心の窓口を開いておく必要性は、言うまでもありません。

②結果とプロセスに対してフィードバックを行う

  • 達成期限がきて何らかの結果が出たら、まずは目標達成に向けて行動した、というそのプロセスを認めましょう。ややもすれば結果だけに目が行きがちですが、その前にまず一言「やったな」と、行動そのものを「承認」することが大切です。
  • その上で、目標を達成したのであれば、まず褒める。これは基本です。その上で、達成した・しないに関わりなく、「うまくいったこと」は何かを部下に質問してみましょう。人は失敗から学ぶものではありますが、成功した場合も、その要因をあえて振り返ることで、次に再現させるのに役立ちます。未達成の場合でも、まずは「うまくいったこと」から始めるというポジティブアプローチによって、前向きな思考を促す効果があります。
  • そのあとで、うまく行かなかったことを次はどう改善すればいいのか、という質問に移り、失敗から学ぶプロセスを進めましょう。

人間関係構築の基本は密に1対1のコミュニケーションをとることですが、仕事の上では、特に具体的な目標設定とその実践、評価という具体的行動について話し合うことが軸になります。

「俺の背中を見て盗め」とか「あうんの呼吸」などと言って言葉で語り合うことなく、アフターファイブに飲みニケーション、という昭和的なアプローチは、残念ながら今のダイバーシティ時代には通用しません。

ただ、1対1に加えて、人間関係を尊重する企業文化をつくっていくことも非常に大切です。それを先導できるのは、企業のトップを置いて他にはありません。

私が新卒でソニーに入社した当時、まだ創業者の井深大氏も盛田昭夫氏もご健在でした。それぞれ名誉会長・会長という雲上人ではあったものの、入社式や社内報で、彼らのメッセージを直接受け取ることができました。中でも特に印象に残っているのは、「おせっかいであれ」という盛田会長の言葉です。

社内報で報じられたその年の入社式での訓話で、「他部署のことでも、何か変だ、こう改善したほうがいい、と思えば、どんどん口出ししておせっかいを焼け」という文章が続いていました。まさに全社レベルで上述のフィードバックプロセスを進めろ、という意味にも受け取れます。

折に触れて全社に発信されるトップメッセージに加え、彼らから直接薫陶を受けた役員や事業本部長からも、直接の手ほどきを受けました。

海外営業部門では、入社3年目の私がドラフトした海外の販売会社へのテレックス(ファックスやEメールの前身にあたる通信手段)に対して、本部長自らそれをチェックして「相手のミスを直接指摘せず、でも相手が自ずと『ああ、オレはばかだったなあ』と気づくような文章を書くのが肝だ」と諭されました。

経営戦略部門で係長(主任)クラスだった時は、大規模な組織変更の社内通達文書のドラフトに対して、なんと副社長CFO(最高財務責任者)自ら赤ペンを入れてくださいました。

あるいは近くの部署の部長が、直属の部下でもない私をファミリーレストランに呼び出して、あれこれアドバイスをしてくださったこともあります。

今振り返れば、それらはすべて、上の方々からの「期待」と「承認」と「フィードバック」のAll in oneパッケージ、上司、ひいては組織への信頼と自らの自己効力感を大いに高揚させるものでした。
「エンゲージメント」などいう言葉がまだ市民権を得ていなかった時代、私も周りも皆、親密な人間関係に支えられて、やりがいを持って仕事に取り組んでいたと思います。

3-3. 意味、意義

セリグマン教授が提唱するPERMAモデルの「M=Meaning(意味・意義)」の重要性については、ポジティブ心理学シリーズの随所で述べてきました。エンゲージメントを高めるためには、やはりこの「意味・意義」が重要な役割を果たします。

今年(2017年)の秋に封切りされた「ドリーム」という映画を、ご覧になった方もいらっしゃると思います。1961年、米航空宇宙局(NASA)ラングレー研究所でマーキュリー計画に貢献した黒人女性3人の実話をベースにした物語です。大きな部屋を丸ごと占領する巨大なIBMメインフレームがようやく世に出始めた時代、彼女らは、卓上計算機を使って計算をする「コンピューター(計算士)」と呼ばれる仕事に携わっていました。

冒頭、警察官に「おまえらはNASAで何をしているんだ?」と尋ねられた主人公のキャサリンは、「ものすごいたくさんの量の計算をしてるのよ」と答えました。確かに、彼女たちは日々タイプライターほどもある大きな計算機をたたいてひたすら計算をしていたのです。

場面が進み、別のシーンで別の人から同じ質問をされたとき、今度はキャサリンはこう答えました。

「宇宙に人類を送る手伝いをしてるのよ」

やっているのは相も変わらず、計算をするという業務ですが、彼女の言葉は全く違っています。目の前の業務を何のためにやっているのか、自分の見方ひとつで、「仕事の意味」は全く違ったものになるのです。

キャサリンが取り組んでいた業務のひとつは、ロケットが地球に戻る時にどこに着水するかを予測するための軌道計算です。

・正確な答えを出すことによって、実行部隊がその着水地点に引き揚げ船を配置させる。
・正しく配置させることによって、飛行士が安心して宇宙に飛び立つことができる。
・飛び立つことによって、米国の威信をかけたマーキュリー計画を成功させる。

一見単調に見える「計算」という業務が、最終的には社会的に大きな意義のある目的の実現につながっていると確信できたとき、やりがいを持って取り組める、つまりおのずとエンゲージメントレベルは高まるのです。

目の前の仕事は何のために(Why)やっているのか、その仕事をすることによって、次に誰が何をすることが可能になるのか、上へ上へと遡り、究極の意味まで到達できたとき、自分の仕事はエンゲージするに値する、と思うことができるわけです。

消費者向けのモノづくりや小売りの事業に携わる会社では、「人々の生活を便利にする」「美味しい物を食べてもらう」など、究極の目的が比較的わかりやすいかもしれません。難しいのは、金融業や会計士など、物理的な「モノ」ではない数字(今日日、銀行窓口業務でさえ大量の札束を目にすることはあまりないと思います)を扱う人々かもしれません。

そんな中、世界最大の会計士集団のひとつであるKPMG(本部:オランダ)では、日々数字との戦いに追われる社員のやる気を高めるため、2014年に自分がやっている仕事の「意味と目的」についてのストーリーを社員から募集するプロジェクトに取り組みました。

普通に考えると、会計士の仕事は「クライアントの財務諸表をチェックする」→「監査証明を出す」、「事業会社が他社を買収する前の財務デューディリジェンスを行う」→「適正な買収価格設定の根拠を提示する」といったものでしょう。

しかし、社員から出てきたストーリーのヘッドラインは、このようなものでした。

「(南アフリカの選挙の監査をすることにより)民主主義を擁護する」
「(金融機関のマネーロンダリングを監査することにより)テロリズムと闘う」
「(家族経営の農場への貸付システムを構築することにより)農場の成長を支える」

5月に募集開始したとき、11月の感謝祭祝日までに1万件のストーリーが集まったら2日間の有給休暇を出すというインセンティブをつけましたが、1万という目標はなんと最初の3週間であっさり達成

11月には約4万2000件のストーリーが集まったそうです。そして何よりも、このプロジェクトの結果、社員のモラルや成長志向、仕事に対する誇りが明らかに向上しました。まさに、意味や目的を考えることが、エンゲージメントレベルに大きく貢献したわけです。

エンゲージメントを上げるためには、何かもっと意味のある仕事を探すのではなく、今現在携わっている仕事に対する見方を変えて、どのような意義や目的があるのかを明確にすることが大切なのです。

たとえ自分がやっている仕事がたった1つの歯車でも、その歯車が大きな機関車を動かす一部だと思えるとき、大きな目的を実現する一翼を担っているのだという気概を持てるとき、私たちのエンゲージメントレベルはおのずと高揚するはずです。


4. 仕事の意味を見つけるエクササイズ

エンゲージメントを高める要素のうち、「仕事の意味」を見つけるエクササイズをご紹介します。一人でもできますが、複数でお互いの内容をシェアしながら進めると、新たな気付きや互いの業務の関連性が分かり、より効果的です。

<やり方>

  1. 自分が日々やっている主要な業務内容を、1つずつ付箋に書きます。
  2. それらの付箋を、X軸(かけている時間が少ない→多い)とY軸(重要性が高い→低い)の4象限のどこかにマッピングします。
  3. 第1象限(かけている時間が多く、重要性が高い)に入る業務について、その業務を何のために行っているのか(目的)を考え、新しい付箋に書きます。その際、上述の「ドリーム」の主人公のキャサリンのように、その業務を行う「ことによって」、自分のその業務の次(上)に位置する人が何をするのか、という視点で考えるとわかりやすいと思います。
  4. さらに、その業務を行う「ことによって」何を実現するのか、というふうに、より上位の業務へと遡って1つ1つ付箋に書き、「究極の目的」まで到達します。
  5. 2.のマッピングで第2~4象限にマッピングされたものについても、同じように遡っていきます。どこかの段階で、3・4ステップで到達した「目的」と重複すれば、それらの業務は「究極の目的」につながっていることになります。あるいは、別の「究極の目的」が見えてくるかもしれません。その場合、3.4ステップで到達した目的とどちらが重要かを考えてみましょう。それが真の「究極の目的」になります。
  6. どうしても「究極の目的」につながらない業務は、本当にやる意味があるかどうかを検討してみましょう。

<ヒント>

このエクササイズは、仕事の究極の意味を明確にするとともに、そのために最も力を入れるべき業務は何かを見直す上でも有用です。5ステップのところで、実は一番時間をかけている業務よりも大切な業務がある、といった気付きが得られることがあります。

また、まだ単調な仕事しかやらせてもらえない新人に、その業務がその先どんな大きな仕事につながっているのかを理解させるツールとしても活用できます。非常に単純な例を挙げると、このようになります。

「新製品の事業計画資料をコピーして出席者に配る」
→「配ることによって、出席者が詳細なデータを理解する」
→「理解することによって、計画を決議する」
→「決議することによって、その計画を実施する」
→「計画を実施することによって、その新製品を世に送り出して消費者に喜んでもらう」

最近、新卒社員が入社数カ月で「こんなことをやるためにこの会社に入ったんじゃありません」とたんかを切って辞めることが多いそうですが、そうなる前に、一度このエクササイズをやってもらってはいかがでしょうか。


5. まとめ

エンゲージメントの定義や測定方法にはさまざまな種類がありますが、代表的なギャラップ社のエンゲージメント調査は、「1人当たりの生産性=能力×(人間関係+適切な期待+承認・褒賞)」という方程式を踏まえ、複数の視点から総合的に評価しています。

一方、組織心理学者のシャウフェリ教授は、「ワークエンゲージメント」を、活力(Vigor)、献身(Dedication)、没頭(Absorption)という3つのキーワードから定義しています。

いずれも、仕事をする際に強みを発揮すること、仕事をする上での人間関係、特に上司から部下に対する期待の明確化、実行プロセスと結果に対する評価(うまくいったことを褒める、うまくいかなかったことを次に生かすようフィードバックする)が、エンゲージメントを高めることにつながります。

そして何よりも、その仕事をする意味・意義を究極まで突き詰めることが大切です。
自分がやっている仕事がたとえごく一部分だとしても、その大きな目的を実現する一翼を担っているのだという気概を持てるとき、私たちのエンゲージメントレベルは自ずと高揚するはずです。

<参考>

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コメント

「〔ポジティブ心理学〕ワークエンゲージメント とは?その効果と高め方」に対する1件のコメント

  1. 貴女のライトワークスブログの投稿をすべて興味深く読みました。山本和隆さんのフィードバックに関する記事も読みました。社員のエンゲージを高めることがこれからの生き残りの要件であると思い納得しています。私はメーカーとして百人ぐらいの社員のいる鉄鋼業を経営していますが社員教育に役立てています。三つの良いこと等のエクササイズは参考になりワークショップ形式の研修に取り入れています。また参考になるような記事がありましたら教えてください。大変感謝しています。

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