ランチパスポートに学ぶいまどきの知財戦略 新しい視点と教育のあり方とは

「ランチパスポート」はご存知ですか ?

通常700円以上のランチメニューが500円で食べられるランチブックとして、今や全国80以上のエリアで発売されているため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。実はこのランチパスポート、そのお得さもさることながら、別の面でも大きな注目を集めているのもご存知でしょうか 。

ランチパスポートは、商標権、特許権、著作権といった知的財産権を多面的に活用したビジネスモデルを確立し、斜陽傾向にある出版事業を守るビジネスモデルとしても話題となりました。

知的財産権の事例や教育モデルをお探しのあなたにとって、大変よい事例材料です。

ランチパスポートのビジネスモデルを素材に、それぞれの知的財産権がどのような権利であり、このビジネスモデルでどのように活用されているのか、また、このような新しいビジネスモデルを創出するためには、どのような視点や施策が必要なのかというところまで見ていきましょう。

ぜひ、あなたの会社の知財戦略にお役立てください。

1. ランチパスポートのビジネスモデル

出版業界は長らく低迷しており、構造的な不況であると言われています。書籍の販売は、1996年をピークに長期低落傾向が続いています。特に、月刊誌・週刊誌の販売は17年連続のマイナスであり、休刊点数が創刊点数を上回り、総銘柄数は8年連続で減少しています。

そのため、書店数も毎年減少しており、1999年(22,296店)と比較すると2017年は、56%(12,526店)にまで落ち込んでいます 。[1][2]

そのような環境の中で、出版社、書店、掲載店、読者を四方よしにするビジネスモデルとして注目されたのが、四国で誕生した「ランチパスポート」という雑誌です 。

参考)
ランチパスポート公式サイト、㈱ほっとこうち、㈱エス・ピー・シー
http://lunchpassport.com/books/
ランチパスポート公式アプリ、㈱バリュー・パスポート
https://app.lunch-pass.jp/

ランチパスポートは、高知県でタウン誌の出版・販売を行なう「ほっとこうち」が商標権を取得し、愛媛県でメディア事業を行なうエス・ピー・シーと共同でサービス事業を行っています。

このビジネスモデルの関係者を図式化すると次のようになります。

(図表1)「ランチパスポートのビジネスモデル」[3]

このビジネスモデルは、ほっとこうちが「ランチパスポート」の商標権を取得し、ライセンス契約を条件に、エス・ピー・シーと共同で、各出版社に対して、掲載のノウハウや出版のためのシステムを提供していると思われます。また、公式アプリのサービスについても、両社が共同で「クーポンシステム」を特許出願しています。

参考)ランチパスポート公式サイト(㈱ほっとこうち、㈱エス・ピー・シー)
http://lunchpassport.com/books/

[1]「2015 日本指標年報」出版科学研究所、公益社団法人全国出版協会<http://www.ajpea.or.jp/statistics/>
[2]「書店数の推移 1999年~2017年」、日本著作販促センター<http://www.1book.co.jp/001166.html>
[3] 日経カレッジカフェ「見せればランチ500円『ランチパスポート本』のカラクリ」<http://college.nikkei.co.jp/article/37784710.html>とランチパスポートのHP<http://lunchpassport.com/books/>に基づき、金沢工業大学(K.I.T.)客員教授 竹本和広氏が作成した教材を許諾を得て使用

2. ランチパスポートにみる知財ミックス戦略

ランチパスポートのビジネスモデルで特徴的なのは、複数の知的財産権と自社のノウハウを組み合わせて活用していることです。このように、知財を多面的な組み合せで活用することは、「知財ミックス」もしくは、「知的財産権ミックス」と呼ばれています。これらは比較的新しい言葉であり、明確ではありませんが、ひとまず次のように定義されています。

“”知財ミックス“については、明確な定義や考え方は整理されていない状況です。いわゆる”知財ミックス“には、財産的価値を有する知財群を示す場面(知財ミックス)と、その財産的価値を有する知財群を法的に保護する知財権群を指す場面(知的財産権ミックス)がありますが、両者は、それぞれの目的や範囲が異なるものです。”[4]

参考)
知財ミックス戦略及び知財権ミックス戦略の本質的効果(乾智彦)
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201604/jpaapatent201604_096-104.pdf
知財ミックスとブランドによるブランディング支援―新たな商標の意義(鈴木公明)
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/280/280design.pdf
[コラム]企業の知財戦略の変化(知財ミックス) | サン・グループ
https://sun-group.co.jp/information/1058.html

ランチパスポートのビジネスモデルは、商標権、著作権、特許権、ノウハウを組み合せて活用されています。ここでは、その内容について、具体的に見てみていきたいと思います。

2-1. 商標権の役割

商標権は、商品やサービスに使用する商標(マーク)を保護する知的財産権です。商標権を取得するには、特許庁に出願して審査を受けて、登録する必要があります。

商品(第1類~34類)と役務(第35類~45類)の区分ごとに出願と登録が可能であり、有効期間は10年間ですが、その後さらに10年単位で更新することができます。

商標権の出願・登録は、特許庁のデータベースや特許情報プラットフォームなどから検索することができます。商標権が、どの分野にいつ出願・登録しているかを見ることにより、権利者がどのような事業を目指しているかを知ることができます 。

ほっとこうちは、2012年、「ランチパスポート」の商標権(登録551365)を、印刷物含む第16類に出願・登録しています。その後、2015年には、「LUNCH\PASSPORT」の商標権(登録5767094)を、電子出版物を含む第9類と広告を含む第35類に出願・登録しています。

この登録内容から、当初は、出版をベースにしたビジネスモデルからスタートし、その後、ネットサービスへの展開を目論んでいたことがわかります。

こうした商標出願・登録状況の調査は、新しいビジネスモデルを考える際、ライバルや市場の動向を分析するために有効です。

参考)
特許・実用新案、意匠、商標の簡易検索(特許情報プラットフォーム)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage?sid=AEAA16
類似商品・役務審査基準[国際分類第9番対応](特許庁)
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/ruiji_kijun9.htm
第9類(特許庁) 
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/ruiji_kijun9/9han_dai9rui.pdf
第35類(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/ruiji_kijun9/9han_dai35rui.pdf
第16類(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/ruiji_kijun9/9han_dai16rui.pdf

 

2-2. 著作権の役割

著作権は、文芸、美術、音楽等の創作的な表現(著作物)を保護する知的財産権です。商標権、特許権と異なり、特許庁に出願して登録する必要はありません。著作権者が著作物を創作した時点で権利が発生します。その権利は、創作後、個人の場合は、死後50年、法人の場合は、公表後50年(ただし映画の著作物は 70年)保護されます。

著作物の対象になるのは新聞・小説・雑誌などの記事や絵画・写真などの美術品、TV・映画などの映像のほか、コンピュータのプログラムも保護される著作物に該当します。

エス・ピー・シーは、自動組版システムを開発し、出版社に提供しています。このシステムのプログラムはエス・ピー・シーの著作物として法律で保護される対象となり、そのシステムの提供を通じて、出版社にライセンスしていると思われます。

2-3. 特許権の役割

特許権は、技術に関する発明(アイディア)を保護する知的財産権です。特許権を取得するには、商標権と同様に、特許庁に出願して、審査を受けて登録する必要があります。登録した権利は、出願後、20年間保護されます。

それでは、ランチパスポートのWebサイトに記載されている出願中の「ビジネスモデル特許」とは、どのような権利なのでしょうか。知的財産管理技能検定のテキストからの引用をみてみましょう 。

“ビジネスの手法(例えば、顧客の購入金額に応じて一定のサービスポイントを与え、たまったポイント数により商品や商品券等に引き換えるサービスなど)それ自体は、人為的な取り決めであるため、「自然法則を利用」しておらず、特許法の保護対象である「発明」には該当しません。

 しかし、ビジネス上のアイディアを、コンピュータやコンピュータネットワークなどのIT(情報技術)を利用して実現すれば、特許法の保護を受けられる可能性があります。(例えば、サーバを用いて、インターネットオプションで購入した商品の金額に応じてポイントを加算するサービス)。これは「ビジネスモデル特許」と呼ばれています。“[5]

この基準に照らすと、ランチブックを用いたビジネスの仕組みそのものは、ビジネスモデル特許の対象にはなりません。ITを利用してこの仕組みを実現して初めて対象となり得るのです 。

ランチパスポートが2013年に出願し、2015年に公開された出願内容を見ると、発明の名称は、「クーポンシステム」とされています。発明者はエス・ピー・シーの社員ですが、出願は、エス・ピー・シーとほっとこうちに加えて、大学共同利用機関法人・システム研究機構の共同出願になっています。

発明の内容は、印刷クーポンとデジタルクーポンを、ITを利用して識別するサービスであり、ビジネスモデル特許として登録される可能性があります。この出願内容を見ると、2016年にスタートした公式アプリによるサービスを保護することを目的とした特許出願であると思われます。[6]

商標権の場合と同様に、特許出願・登録内容の調査は、新しいビジネスモデルを考えるときに、ライバルや市場の動向を分析するために有効です。

出願中の特許は、権利化が完了しているわけではありません。しかし、特許は出願後、最長でも1年半以内に公開されるため、特許公開公報により、出願内容を見ることができ、特許庁のデータベース、特許情報プラットフォーム、知財ポータルサイト(IP Force)などから検索することが可能です。

2-4. 独自のノウハウ

ノウハウは、企業の事業活動に有益な知識や知見のことです。商標権、特許権、著作権と異なり、知的財産に関する法律で保護される対象ではありません。しかし、一定の条件で秘密情報として管理しておけば、不正競争防止法の営業秘密として保護される可能性があります。また、ノウハウの提供は、秘密保持契約に基づき行われるのが通常です。

ほっとこうちは、2011年からランチパスポートの高知版を出版しており、掲載店の勧誘などのノウハウがあるはずです。エス・ピー・シーは、月刊誌やフリーペーパー版の出版から、成長出版ビジネス事業化支援などの事業をしており、出版に関するノウハウがあると思われます。これらは、ランチパスポートの商標権のライセンス契約を条件として、出版社に提供されていると考えられます 。

このビジネスモデルは、ほっとこうちとエス・ピー・シーが共同で、ほっとこうちが出願・登録した「ランチパスポート」の商標権を、地域ごとに「ランチパスポート」を出版したい出版社に対してライセンスするとともに、エス・ピー・シーの出版システムを提供し、両社が持つノウハウを提供するサービスです。そして、アプリサービスを守るために、共同で特許出願をしています。

ランチパスポートのビジネスモデルでは活用されていませんが、仮に、ランチパスポートのイメージキャラクターを作り、そのキャラクターのグッズを製品化した場合、そのグッズが量産可能な工業デザインであれば、意匠権により保護を受ける可能性もあります。意匠権も、商標権・特許権と同様に、特許庁に出願して、審査を受け、登録する必要があり、その権利は、登録から20年間保護されます。

ビジネスモデルの価値を高めるためには、多面的に知的財産権を活用するアプローチが重要です。

2-5. さらなる挑戦

2011年当初、ランチブックからスタートしたこのビジネスは、不況下の出版事業とその分野を担う事業者を守るビジネスモデルとして注目されていました。さらに、サービス開始時点ではスタートしていなかったネットによるクーポン事業についても、2013年に特許出願しています。そして2016年には、公式アプリのサービスを開始し、現在では、ランチブックとアプリサービスを並行して提供しています。

アプリサービスは、バリュー・パスポートという別の会社が運営しています。ほっとこうちとエス・ピー・シーとの資本関係などは公開されていないため分かりませんが、バリュー・パスポートの監査役にほっとこうちの代表取締役が、取締役にエス・ピー・シーの代表取締役が就任しています。

参考)
㈱バリュー・パスポート 会社概要
http://valuepassport.co.jp/

話題のビジネスモデルですが、再掲載を断る飲食店が出るなど、課題も指摘されています。また、今後、ランチブックとアプリサービスが併存できるか否かはわかりません。

しかしながら、事業の企画段階から、ビジネスモデルの価値を高めるために、複数の知的財産権の価値とリスクを考慮し、必要な権利を出願・登録しており、今後の展開を注目すべきビジネスモデルです。

参考)
「ランチパスポート」ブームの裏で再掲載断る飲食店が続出する理由 (ZUU online 2015/9/11)
https://zuuonline.com/archives/80717

[4] 一般社団法人日本知的財産学会、知財人財育成研究分科会<https://www.ipaj.org/bunkakai/jinzai_ikusei/event/24th_reikai.html>
[5] 知的財産管理技能検定2級公式テキスト[改訂7版]、知的財産教育協会(一般財団法人知的財産教育研究財団)編、㈱アップロード刊、2017、P42.
[6] 特許出願公開番号:特開2015-60396(P2015-60396A)クーポンシステム(IP Force)<http://ipforce.jp/patent-jp-A-2015-60396>

3. これからの企業の知財教育、知財戦略のポイント

従来 、知財の知識がもっとも必要となる業種は製造業であると思われていましたが、ランチパスポートの例然り、知財の活用シーンやその方法は多様化してきています。

主な例を3つ見てみましょう。

まず挙げられるのが、イノベーションを求める大企業がベンチャー企業に対して出資や提携を行う動きです。

参考)
トヨタ、パナ、JR…過熱する「CVC」投資 ―― 膨れ上がる460兆円がベンチャーバブルを引き起こす(BUSINESS INSIDER JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-104236
大企業とベンチャーがWIN-WINの発展を実現するためのベストプラクティス事例集(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/pdf/best_practice.pdf

こうした例は、昨今増加傾向にあります。ところが、経済産業省が策定・発表している「事業会社と研究開発型ベンチャー企業のための手引き」では、大企業とベンチャー企業の連携における失敗事例として、「連携の成果である知的財産の帰属やライセンス内容で合意できなかったり、自社に不利な内容で締結したりすることにより、連携は行ったものの期待された事業シナジー発揮には至らないという、知財の問題が 連携の壁となっている例があることが紹介されています。

参考)
事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引書(初版)(経済産業省)P21,54
http://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture/tebiki.pdf

そのため、新しいビジネスモデルの構築を目指す事業部門やマーケティング部門の担当には、ベンチャー企業を含む企業間の連携を成功させるためにも、知財の基礎知識が必要です。

2つ目は、金融事業の変化です。
特許庁は、「知財ビジネス評価」を次のように定義し、各金融機関に対して、「知財ビジネス評価書」を用いて、中小企業の知財に対して積極的な融資を行うことを推奨しています。

“知財ビジネスとは、知財権の金融価値評価ではなく、あくまで定性的な事業評価であり、知財を切り口として中小企業等における事業の実態や初来の成長可能性等について、理解を深めるために行うものである。”[7]

参考)
知財ビジネス評価書について(特許庁)
http://chizai-kinyu.go.jp/docs/

これからは、金融機関の融資担当にも、知財を理解し、評価する能力が求められるということです。

さらに、経営戦略の分野では、知財分析の手法とその手法を生かした知財重視の経営戦略を示す「IPランドスケープ」という用語が話題となっています。これが3つ目です。

「IPランドスケープ」は、まだ新しく、明確な定義がない用語ですが、同じく定義が曖昧な「ビッグデータ」という用語が話題となり、データの活用を重視した事業展開を促進するきっかけになったことを考えると、今後、同様に注目される可能性があります。

従って、経営戦略を企画し、経営者に提言する経営企画部門の担当にも、知財を理解し、自社の経営に活かす企画を考える能力が必要ということになります。

このように、知財の世界は広がっています。

ランチパスポートの事例から学べることは、事業の価値を守り、さらに、価値を高めるためには、知財を多面的に組み合わせる方法が有効だということです。情報という無形資産を駆使してさまざまなサービスが提供される現代において、新しいビジネスモデルを考えるときには、知財の前提知識がこれまで以上にものを言うようになるでしょう。

そこで、本章では、今後の企業の知財戦略において重要な2つの要素をご紹介します。

3-1. マーケティングと知財の融合「IPランドスケープ」とは

企業の知財戦略について、「IPランドスケープ」という用語が話題になっています。まだ明確な定義はないようですが、以下のように説明されています。

“経営戦略・事業戦略を積極的に成功させるために知財情報及びマーケティング情報等の非知財情報を統合して分析した事業環境及び将来の見通しあるいは戦略オプションを経営陣・事業責任者に対して提示する業務”[8]

以下の記事も参考になるでしょう。

参考)
IPランドスケープとは (日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO18871160U7A710C1TCJ000

知的財産権(特許権、商標権、著作権等)は、企業が顧客に商品・サービスを提供する過程において、知的資産(人的資産、組織力、顧客ネットワーク、技能等)と知的財産(ブランドイメージ、ノウハウ等)から生まれてくる権利です。従って、事業活動とは、知財を創り、活かす活動とも言えます。これらの関係を整理すると次のようになります 。

(図表2)「知的財産権と知的資産・知的財産の関係」[9]

なお、知財活用について、経済産業省が企業の具体的な事例を公開しています。以下の事例集をご参照ください。 

知的財産権活用企業事例集2016(経済産業省)https://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/kigyou_jireii2016.htm

3-2. 実用的な知財教育の実施

知財の知識は、開発者のみではなく、幅広い職能に必要とされる経営の基本知識です。そのため、人材育成プランに従った継続的な教育が必要になります。

私が特におすすめするのは、事例を用いた学習です。詳細は別記事「事例学習が効く!会社をつぶさないためのコンプライアンス教育」にまとめていますので、そちらをご参照ください。

また、同じ記事の中で、知識の習得以外の要素として特に「問題発見能力」の育成が重要であることを解説しています。知財の知識においても、問題発見能力の育成が必要です。さらに、発見した問題を解決するための「問題解決能力」の育成も必要です。

例として、私がかつてパナソニックでコンプライアンスと知財研修において、実施していた教育施策をご紹介しましょう。

まず、幅広い職能に対して問題発見能力を問うeラーニングによる研修を実施します。
教材は、具体的なビジネスシーンにおける判断軸の微妙な選択肢を提示し、問題の所在を自ら考える という設計にしていました。

従来のビジネスの法律や知財に関する教材は、法学部の教育のように法律の理論を学び、それを現実のビジネスに当てはめようとしますが、実際のビジネスにおける問題は、法律や知財の問題として起こるのではなく、何らかの問題が発生し、その原因のひとつに法律や知財があります。

私はこの考え方をeラーニング教材の設計に反映させたのです。受講者は、問題発見の教材を通じて、自ずと法律や知財について学び、考えることになります 。

その後、LMS(Learning Management System、学習管理システム)から学習履歴データを取得し、職能や所属などの属性ごとに正答率などを分析します。すると、法律や知財を 構成するさまざまな知識について、従業員の理解度のバラツキや弱点分野など、教育上の課題が見えてきます。
また、研修後のアンケートも実施します。その結果からは、社内の法律や知財に関する取り組みの状況や問題意識が見えてきます。

これらのデータを元に、リーダーやマネージャー層に向けの演習を作成し、集合研修を行うのです。演習の内容は、自社の事業に関する法律や知財分野における問題を解決するというものです。こと自社の課題がテーマですから、抽象的でイメージし難い法律や知財についても、自ずと意識が高まりますし、問題解決能力の育成にも役立つというわけです。

企業には階層別、職能別などさまざまなタイプの教育がありますが、こうした施策の学習履歴をデータとして活用できるのは、eラーニングならではといえるでしょう。私がコンプライアンスや知財分野の人材育成にeラーニングを活用したのも、こうした理由からです(eラーニングの活用方法については別記事「eラーニング6つの活用モデルで無駄のない戦略的な人材育成プランを」をご参照ください)。

また、上記の例では、研修の実施サイドである我々のほうでデータの分析すなわち「問題発見」の部分を行ったわけですが、この作業自体を集合研修の演習としてもよいでしょう。自分たちの組織が抱える問題や特徴に関するデータを分析することは、法律や知財の学習のみならず、リーダーやマネージャー層が、経営的な視点から組織の現状や課題を検討したり、新しいビジネスモデルを考えたりするためにも有効です。

ことビジネスに関しては、世の中の事例や自社の事例、従業員の中にこそ学びの素材があるものです。こうした素材を活用し、実用的な知財教育を行うことが、自社のビジネスモデルにおける知財戦略の策定と実施のための重要なポイントになってきます。ぜひ活用をご検討ください。

[7] 知財ビジネス評価のあり方(知財金融委員会)<http://chizai-kinyu.go.jp/docs/docs/arikata.pdf>
[8] 公開講座「『IPランドスケープ』とは何か~欧米の先進企業で広がる知財データを活用した最新の経営戦略・事業戦略策定の支援手法について」(K.I.T.虎の門大学院)配布資料 P19<http://www.kanazawa-it.ac.jp/tokyo/im/seminar/1202178_2818.html>
[9] 金沢工業大学(K.I.T.)客員教授 竹本和広氏作成による教材を許諾を得て使用

4. まとめ

事業活動とは、知財を創り、活かす活動です。事業やビジネスモデルの価値を高めるためには、知財を理解し、複数の知的財産権を多面的に組み合わせて活用する方法が有効です。

特許権、商標権、意匠権は、特許庁に出願して審査を受け、登録が必要な知的財産権であり、それぞれ登録できる要件が異なります。これらは、出願や登録内容が特許庁のデータベースから検索できますから、事前に調査することは、ライバルや市場の分析をするためには欠かせません 。

著作権は出願・登録の必要はなく、創作と同時に権利が発生します。これらの知的財産権について、それぞれ、どのような価値があり、何が法律で保護されるのか、そして、保護されるにはどのような手続きが必要であるのかを知っておくことが重要です。

このような知財の知識は、いまや開発職のみではなく、事業部門、マーケティング部門から、経営企画部門の担当者にも教育する必要があります。また、金融機関の融資担当にも、知財の知識が求められるのです。

幅広い職能の継続的な教育には、人材育成計画が必要であり、学習履歴と分析ができるeラーニングを用いる教育が有効です。

今回ご紹介した事例を参考に、知財の知識を経営の基本知識として、継続的な人材育成にご活用ください。

<参考情報>
・大企業とベンチャーがWIN-WINの発展を実現するためのベストプラクティス事例集(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/innovation_policy/pdf/best_practice.pdf
・トヨタ、パナ、JR…過熱する「CVC」投資 ―― 膨れ上がる460兆円がベンチャーバブルを引き起こす(BUSINESS INSIDER JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-104236
・事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引書(初版)(経済産業省)P54
http://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture/tebiki.pdf
・知財ビジネス評価のあり方(知財金融委員会)
http://chizai-kinyu.go.jp/docs/docs/arikata.pdf
・知財ビジネス評価書について(特許庁)
http://chizai-kinyu.go.jp/docs/
・「2015 日本指標年報」(出版科学研究所、公益社団法人全国出版協会)
http://www.ajpea.or.jp/statistics/
・「書店数の推移 1999年~2017年」(日本著作販促センター)
http://www.1book.co.jp/001166.html
・苦悩の日販、出版不況に配送危機が追い打ち(日本経済新聞 2017/5/30)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ30HXG_Q7A530C1000000/
・知財財産権活用企業事例集2016(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/pdf/kigyou_jireii2016/all.pdf
・知財ミックス戦略及び知財権ミックス戦略の本質的効果(日本弁理士会 乾智彦)
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201604/jpaapatent201604_096-104.pdf
・見せればランチ500円「ランチパスポート本」のカラクリ(日経カレッジカフェ)
http://college.nikkei.co.jp/article/37784710.html
・ランチパスポート公式サイト(㈱ほっとこうち、㈱エス・ピー・シー)
http://lunchpassport.com/books/
・ランチパスポート公式アプリ(㈱バリュー・パスポート)
https://app.lunch-pass.jp/
・特許・実用新案、意匠、商標の簡易検索(特許情報プラットフォーム)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage?sid=AEAA16
・知財ポータルサイトIP Force基本情報(IP Force)
https://ipforce.jp/Index/about
・「出版業って儲かるんですね!」そんなことはありません。出版業界は大変な不況です。(Zuu online)
https://zuuonline.com/archives/136737
・㈱ほっとこうち 会社概要
http://www.hotkochi.co.jp/company/
・㈱エス・ピー・シー 会社概要
https://www.kk-spc.co.jp/company/index.html
・㈱バリュー・パスポート 会社概要
http://valuepassport.co.jp/
・一般社団法人日本知的財産学会、知財人財育成研究分科会
https://www.ipaj.org/bunkakai/jinzai_ikusei/event/24th_reikai.html
・ [コラム]企業の知財戦略の変化(知財ミックス) (サン・グループ)
https://sun-group.co.jp/information/1058.html
・知財ミックスとブランドによるブランディング支援―新たな商標の意義(鈴木公明)
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/280/280design.pdf
・「ランチパスポート」ブームの裏で再掲載断る飲食店が続出する理由(ZUU online)
https://zuuonline.com/archives/80717
・公開講座「『IPランドスケープ』とは何か~欧米の先進企業で広がる知財データを活用した最新の経営戦略・事業戦略策定の支援手法について」(K.I.T.虎の門大学院)
http://www.kanazawa-it.ac.jp/tokyo/im/seminar/1202178_2818.html
・IPランドスケープとは(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/news/print-article/?_FLG=0&bf=0&ng=DGKKZO18871160U7A710C1TCJ000
・知的財産権活用企業事例集2016(経済産業省)
https://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/kigyou_jireii2016.htm

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