AI時代を生き抜くためにリーダーに求められるヒューマンスキル

ビジネスは「知的総合格闘技」と言えます。そのため、ビジネスパーソンにはさまざまなスキルが求められることになります。その中で今注目されているのが「ヒューマンスキル」です。

ヒューマンスキルとは、「ヒト」に関するスキルのことで、アメリカでは、一般的に「ソフトスキル」と呼ばれています。本稿は、ヒューマンスキル(ソフトスキル)が求められる日本のシビアな状況と、リーダーとして知っておくべきことについて説明します。ビジネスのプロとして良い仕事をしたいと考えるなら、ソフトスキルが成功の鍵を握ることが理解できると思います。 

1.  ソフトスキルが切実に求められる3つの背景とは

ビジネスは、「ヒト、モノ、カネ」の3要素から成り立っています。このうち、モノとカネを対象としたスキルを一般的に「ハードスキル」と呼んでいます。それに対して、ヒトに関するスキルが「ソフトスキル」です。

今、ソフトスキルが切実に求められる背景として、次の3つが挙げられます。

1. 日本企業のエンゲージメント(モチベーション)の低さ

2. 待ったなしの「働き方改革」

3. AIの怪物的進化

それぞれの事情について見ていきましょう。

1-1. 日本企業のエンゲージメント(モチベーション)の低さ

仕事をするうえでモチベーションが決定的に重要であることは間違いないでしょう。このモチベーションに関連した考え方に「エンゲージメント」があります。エンゲージメントとは会社や仕事に対する思い入れ、愛情、積極的な感情を指します。日本ではまだ浸透していませんが、欧米では非常に重視されていて、多くのグローバル企業が定期的に従業員のエンゲージメントを調査しています。

一般に知られているES(従業員満足度)は、社員が会社や仕事に満足しているかどうかを問うもので、そのスタンスはどちらかというと受動的です。そこで「もっと能動的、前向きなスタンスが大事だ」という認識がされるようになり、エンゲージメントという概念が注目されるようになったのです。

エンゲージメントについては、マーサーやタワーズワトソンといった世界的な人事コンサルティング会社がグローバルな比較調査をしています。その結果はショッキングです。どの調査結果を見ても、日本企業は最下位に沈んでいるのです[1]

さらに問題なのは、この結果を大企業の経営幹部に見せると、「そんなはずはない。世界中の誰よりも熱心に仕事をしているのは日本人社員だ」という答えが返ってきます。ところが、若手社員からは「当然の結果です」という答えが返ってくるのです。このような認識ギャップがある組織は健全とはいえません。

ビジネスは競争です。エンゲージメントが低い会社は競合相手として怖くありません。競争に勝ち抜くためには様々な課題を克服しなければなりませんが、従業員のエンゲージメントがその基盤となることは間違いありません。そして、エンゲージメントを上げるために必要なのは、モノ・カネを対象とするハードスキルではなく、ヒトを対象とするソフトスキルなのです。

[1]「日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか」 ロッシェル・カップ クロスメディア・パブリッシング 2015

1-2. 待ったなしの「働き方改革」

安倍政権が進める「働き方改革」も待ったなしです。その背景には、急速に進む少子高齢化と労働生産性の低さという、これもまた日本固有の事情があります。

日本の生産人口(15歳~64歳)は、2017年の7578万人から10年後の2027年には7072万人(▲500万人)、20年後の2037年には6291万人(▲1288万人)になると予測されています[2]。わずか20年で東京都が消滅するほど急激に減少するのです。また、日本の労働生産性は主要先進7カ国において20年連続で最下位となっています[3]

このような状況において非効率的な長時間労働を強いるような職場は、人材を確保できなくなります。また、グローバル競争において生き残ることも困難になるでしょう。一方で、日本の最高の資源がヒトであることに異論はないでしょう。世界的に見て、これだけ高い教育水準と勤労倫理を持った人材を抱えている国はありません。ヒトの潜在的能力をフルに活かすスキルこそ、ソフトスキルなのです。

[2]国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口」2017年推計
[3]公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2016年版

1-3. AIの怪物的進化

工業化時代のビジネスにおいては、モノとカネが決定的に重要だったと言えます。そのため、ビジネス理論のメッカであるアメリカのビジネススクールは、長年にわたってモノ(経営戦略論、マーケティング)やカネ(アカウンティング、ファイナンス)を対象とするハードスキルにフォーカスしてきました。

ところが、IT革命によって第4の要素が重要な役割を演じるようになりました。それが情報(データ)です。そして、IT革命の「最終兵器」として登場してきたのがAI(人工知能)です。AIの進化はすさまじく、知的ゲームの代表であるチェス、囲碁、将棋のチャンピオンを倒すまでになりました。もはや人間の知性を超えたといっても過言ではありません。

将棋の羽生善治三冠は、AIと佐藤名人の対局を振り返って「これは将棋界のひとつの出来事ではない。社会全体の未来を先取りしている」と語っています(NHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」より)。このようなAIの猛烈な進化を考えると、人間の仕事がAIに取って代わられるのは極めて近い未来だと覚悟を決めたほうが賢明です。

その一方で、AIでは代替が難しいと思われる仕事も見えてきました。それは、創造性が要求される仕事と、他者との協調、説得、交渉といった、ヒトとの関係性の構築が求められる仕事です。後者は、まさにソフトスキルが活躍する領域です。また、前者はイノベーションの創出に当たりますが、これについても次節で述べるようにソフトスキルが鍵を握っているのです。

羽生三冠は「AIは人間よりも優れているかもしれないが、絶対に正しいとも限らない。それを受け入れるかどうかは最終的に人間の判断になるので、どのように人間の実力を伸ばしていくかが鍵となる」という趣旨のことを語っています。来るべきAI時代においては、ヒトの能力を伸ばすソフトスキルを磨くことが勝負となるのです。

2. ビジネスリーダーが知っておくべきソフトスキルの世界

それではソフトスキルとは具体的にどのようなものなのでしょうか。「ヒトに関するスキル」と言うだけではテーマも多岐にわたり、曖昧過ぎます。そこでAI時代を生き抜くために、ビジネスリーダーに必須となるソフトスキルに焦点を絞って説明をします。

2-1. マネジャーの役割とソフトスキル

「ゴルフの技量を上げるためには、ランニングで下半身を鍛えることが重要だ」と言われても、ピンとこないと思います。それは、ランニングで下半身を鍛えることとゴルフの技量がどのように関連しているかが明らかにされないからです。それでは練習に身が入りません。

同じことがビジネスでも起こります。「マネジャーとして成果を出すために、さまざまなスキルを身につけろ」と言われても、まったくピンとこないはずです。マネジャーの仕事とは具体的に何なのか、それを実現するためにどのようなスキルが必須か、ということが明確に示されなければ、学びようがないからです。

そこで、まずマネジャーの仕事を明らかにする必要があります。言い換えると、「マネジャーにしかできないことは何か」ということです。戦略立案、業績拡大、収益性向上、業務効率化といった仕事は大事ですが、そんなことはトップはもちろん担当者も必死にやっています。

マネジャーにしかできない仕事、つまりマネジャーの戦略的役割については、経営学界の大御所であるH・ミンツバーグの説に従いたいと思います。なお、ここでマネジャーと言っているのは、中間管理職と同じ意味です。

ミンツバーグによると、業種、職種を超えて、マネジャーが果たすべき戦略的役割は次の3つです。

  1. 会社の業務の円滑な流れを維持するために、微調整やトラブル対応を行う。
    一見したところ華々しさは何もないように見えます。しかし、これが重要なのです。この重要性は、F1(フォーミュラワン)に例えると分かりやすいでしょう。世界最高の自動車競技であるF1は、およそ300kmを走ることになります。市販車で300kmを走ることは簡単です。しかし、F1で300kmを完走することは簡単ではありません。なぜでしょうか。それはF1が車の限界性能を追求しているからです。だからこそ、ミリ単位、グラム単位の微調整やトラブル対応が不可避となり、それが勝負になるのです。
    同じことがビジネスについても言えます。プロのビジネスパーソンは常に限界性能を追求しています。だからこそ、微調整やトラブル対応が勝負の鍵を握ることになるのです。

  2. そのためには、公式の情報・人間関係だけでなく、非公式の情報(口コミ、噂話、人々の表情など)にも支えられた暗黙知と社内外の豊富な人脈を駆使する能力が求められる。
    暗黙知とは、経験から学んで身に着ける智恵のことです。それは言語化したり、モデル化したりすることが難しいものです。経験から学ぶためには、表と裏、建前と本音といった清濁併せのむ姿勢も必要になります。ビジネスの教科書に書いてあることだけを勉強してもダメということです。まさに、ビジネスは知的総合格闘技なのです。
  3. そのような能力を武器にして、組織内の上と下、社内他部署と社外の人々からありとあらゆる情報と要望を受け取り、それを分析し、理解したうえで、再び組織内の上と下、社内他部署、社外の人々に情報を伝達する。
    つまり、組織の中のハブ(要)として機能するのがマネジャーなのです。ハブが機能しなければ、組織全体が機能不全に陥ります。


(図表)ハブ(&スポーク)システム

マネジャーの戦略的役割とは、会社組織の中のあらゆる活動を統合するためのハブとして機能することなのです。自分と接点のある様々な関係者とのやりとりを効果的に行って、組織の要として機能するのです。

「マネジャー=ハブ論」が机上の空論ではないことは歴史が証明しています。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界中から称賛された1980年代において、「日本の企業は課長が動かしている」と言われていました[4] 。課長がハブとして機能していたからこそ、日本企業は強かったのです。

マネジャーを組織のハブと捉えることで、マネジャーは何をすべきか、そのために必要なスキルは何か、という課題が明らかになります。それは、四方八方につながる関係者とのやりとりをどのように行えばよいか、相手との良好な関係性を構築するためにどうしたらよいか、ということです。それぞれの相手との関係を見ていきましょう。

(図表)ハブとしてのマネジャーと関係者

[4]トップダウンのアメリカ企業との対比でこのように言われていました。因みに、当時はこれとセットで「霞が関は課長補佐が動かしている」とも言われていました。

2-2. 部下に対する課題とソフトスキル

まず部下に対してマネジャーは何をする必要があるでしょうか。部下との関係性と言われると、すぐにコミュニケーションやリーダーシップなどが指摘されます。しかし、このような概念は抽象度が高すぎて、「じゃあ明日から何をしたらいいのか」というマネジャーの切実な声に応えることができません。

部下に対する課題について、ミンツバーグは次の3つを挙げています。

1. 部下のエネルギーを引き出す

2. 部下の成長を後押しする

3. チームを構築・維持する

部下との関係性を構築するというのは、マネジャーとしてこの3つを行うことなのです。それを実行するためには、それぞれ特定のスキルが求められます。

1. 部下のエネルギーを引き出す

部下のエネルギーを引き出すためには、部下の根源的な欲求に応えるのが王道です。人間性の心理学の創始者であるマズローによると、人間の行動は欲求を満たしたいという願望によって動機付けられています。欲求には優先順位があって、低次の欲求が満たされると、上位の欲求を満たそうとします。これがモチベーションの源泉となります。

段階は5つあって、下から順番に「生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求」となって、最高段階が「自己実現の欲求」となります。欲求が高次元であるほど、それを満たそうとして人間はエネルギーを発揮します。部下に対してマネジャーにできることは、積極的に部下の欲求を満たしてあげることです。それによって部下から、次のステップに向かうエネルギーを引き出すことができるのです。

第4段階の部下の「承認欲求」に応えると言うと難しそうですが、簡単に言うと「部下を褒める」「部下を認める」ということです。そのための技術が「フィードバック」です。フィードバックを定義すると、「相手の行動に関して自分の意見を言葉で伝達する方法」ということになります。それは、相手を大切に思い、成功するように援助したいという気持ちの表れでもあります。

フィードバックには肯定的なもの(ポジティブフィードバック)と改善を促すもの(ネガティブフィードバック)があり、両方のアプローチによって部下のエネルギーを引き出します。

ビジネスパーソンであれば誰しも、うれしかったこと、励みになったことなど何らかのポジティブな体験があるはずです。そのような体験を挙げてもらうと、必ず「上司に褒められた」「上司に認められた」という回答が出てきます。これがポジティブフィードバックです。自分にとってうれしかったこと、励みになったことを、今度は部下に対して体験させるのです。

ネガティブフィードバックは、部下が成長するように指導・支援することです。成長が実感できれば、誰しもエネルギーが湧いてきます。昔は上司が部下を怒鳴るのが普通でしたが、それでは部下の安全の欲求が満たされません。その結果、部下の成長欲求は低い次元に留まることになります。最近はパワハラを恐れてか上司の指導が手薄になっていて、部下のほうから「もっと教えてほしい」という不満が出てきているようです。部下に対する効果的な指導方法がネガティブフィードバックのスキルです。
(詳細は部下をヤル気にする最強のツール「フィードバック」の記事参照のこと)

部下のエネルギーを引き出すもうひとつの方法は、「自己実現の欲求」に応えることです。そのために役に立つのが権限移譲のスキルです。誰しも「チャレンジングな仕事を任されて、それをやり切った」というポジティブな経験があると思います。そのとき気分は上々だったはずです。まさに、権限移譲がエネルギーを引き出したということです。

権限移譲というと、マネジャーが持っている権限を部下に渡すというイメージがあります。それも権限移譲ですが、それが本質ではありません。権限移譲とは、部下に仕事を任せることで部下が成長し、組織も成長するという戦略なのです。そのため、部下に任せる新規プロジェクトを創造したり、部下がイノベーションを起こす風土を築いたりすることが権限移譲のスキルなのです。このようにソフトスキルはイノベーションの創出とも関係しているのです。
(詳細は権限委譲によって部下を育成し、持続的なイノベーションを起こす方法の記事参照のこと)

(図表)マネジャーに求められるソフトスキル(1)

2. 部下の成長を後押しする

部下の成長を後押しするとは、部下がプロとして一人前になるようにサポートすることです。先に述べたフィードバックも部下の成長を後押ししますが、時間軸で見ると、フィードバックのスコープは短期的なものとなります。なぜならば、フィードバックはある特定の行動に対して意見を述べるものだからです。これに対して、中長期的な観点から部下を育成するのがキャリアデザインです。

部下がどのようにキャリアを形成していけばよいか、マネジャーはキャリアの先輩として、部下の良き相談相手になることが期待されます。そのためには、キャリアデザインについての自分なりの定見を持っておく必要があります。
(詳細はリーダーになるすべての人に知ってほしい 部下を育成するキャリアデザインの記事参照のこと)

(図表)マネジャーに求められるソフトスキル(2)

3. チームを構築・維持する

マネジャーの下には部下が何人かいます。しかし、人が集まれば自動的にチームになるわけではありません。人間の集団が個人の能力を超えた力を発揮するのがチームです。そのためには、「チームビルディング」のスキルが必要になります。
(詳細はリーダーになるすべての人に知ってほしい チームビルディングの極意の記事参照の事) 

今日のビジネス環境では、グローバルな環境でチームを作る必要があります。そのためにはダイバーシティに対応できるスキルが必要になります。世界のイノベーションを牽引している米国のシリコンバレーでは、ダイバーシティの考え方が重視されています。なぜならば、多様な人間が持つ異質のアイデアが出合うことで、イノベーションが生まれることを理解しているからです。したがって、ダイバーシティとはイノベーションを目的とした戦略と言えるのです。
(詳細は対応できないリーダーに未来はない 今すぐ始められるダイバーシティの記事参照のこと) 

チームについては、組織文化の構築も重要な課題となります。強い組織はユニークなDNAを育んでいます。また、強さを持続させている組織は、そのDNAを巧みに伝承しています。組織のDNAは、理論やモデルといった「形式知」で把握することはできません。口伝伝承による「暗黙知」でしか伝えることはできないのです。それを行うのが「ストーリーテリング」です。チームの構築・維持のために、ストーリーテリングのスキルはマネジャーにとって不可欠なものとなります。
(詳細は部下との対話に悩むあなたへ、必ずウケるストーリーテリングの記事参照のこと)

(図表)マネジャーに求められるソフトスキル(3)

2-3. トップに対する課題とソフトスキル

マネジャーにとってトップとの関係性が重要であることは言うまでもありません。トップに対しては担当業務の結果(成果)が優先事項になるので、結果を出すことがトップとの関係性の構築に有利に働きます。

一方で、「結果が出るかどうかはやってみないと分からない」のがビジネスが難しい本質的な理由です。意思決定をする段階では、何が正解か誰にも分からないのです。そこでマネジャーに問われるのが説得力ということになります。トップを説得できなければ、事を起こすことはできません。 

トップを説得するのが難しいのはなぜでしょうか。テーマそのものについては、その分野のエキスパートであるマネジャーが社内で一番詳しいはずです。また、ファクトとロジックに欠陥のある提案をするようではマネジャーになっていないはずです。問題は別のところにあるのです。それは、日本の文化的な事情です。

日本だけを見ていると分かりにくいですが、グローバルな観点から見ると、日本には固有の文化的特性があり、それがトップに対する説得を難しくしています。代表的なものを挙げると次のようになります。

1. ハイコンテクスト(言語に依存しないコミュニケーションが大事)

2. 和を以って貴しと為す(対立を良しとしないメンタリティ)

3. タテ社会(目上を敬うことが期待される)

マネジャーにとって、ファクトとロジックを積み上げた正論で相手を論破することはそれほど難しいことではありません。しかし、日本の文化的特徴を考えると、そのようなアプローチは必ずしもトップに対して有効に機能しません。どんなに正論であっても、言い方ひとつで受け入れてもらえなくなることがあるのです。そこで、「アサーティブ・コミュニケーション」のスキルが必要になります。

「アサーティブ・コミュニケーション」とは、相手を尊重しながら、自信を持って自分の言いたいことを相手に伝えるスキルを指します。アサーティブ・コミュニケーションでは、相手の感情的な側面を考慮に入れたコミュニケーションの方法を追求します。相手を説き伏せて自分の主張を通すのではなく、相手の言い分を踏まえたうえで自分が納得できる範囲で相手との合意形成を目指します。

トップを説得するのは大変ですが、説得できなければ会社を動かすことはできません。そのためには、ロジックに基づいたハードスキルだけでなく、アサーティブ・コミュニケーションのようなソフトスキルも駆使して勝負をする必要があります。なお、社内の他部署との関係性もトップを説得するつもりで対応すればよいでしょう。

(図表)マネジャーに求められるソフトスキル(4)

2-4. 社外のステークホルダーに対する課題とソフトスキル

ビジネスにおいては、社外のステークホルダーとの間に共通する利害や対立する利害が必ず生じます。そのため、両者が合意を形成するための相互コミュニケーションが不可欠となります。社外のステークホルダーとのコミュニケーションを合意形成のプロセスと捉えると、それはネゴシエーション(交渉)ということになります。

ネゴシエーションにはいくつかのスタイルがありますが、ビジネスにおいてもっとも有効とされるのが、Win-Winの関係構築を目指す「原則立脚型」と呼ばれるネゴシエーションです。これはハーバード大学で開発されたアプローチで、ビジネス界でもスタンダードなアプローチとして受け入れられています。原則立脚型のネゴシエーションは次の点を強調しています。

  • 人 :人と問題とを切り離して考える
  • 利害 :立場や面子ではなく、利害に焦点を合わせる
  • 選択肢 :決定する前にできるだけ多くの可能性を考え出す
  • 基準 :あくまでも客観的基準によって判断、評価をする

原則立脚型交渉によってWin-Winの関係を目指すことで、片方だけでなく双方の目的を達成することが可能になります。また、柔軟に考えることで交渉の可能性を拡げることができるので、より良い解決策を考えることができます。さらに、お互いの関係が強化されるので、長期的なビジネスの目標を追求しやすくなります。社外のステークホルダーとの実り豊かな関係構築のために、ネゴシエーションのスキルは不可欠と言えます。

グローバル化の時代において、社外のステークホルダーは日本人とは限りません。同僚が外国人というのも珍しい事ではなくなりつつあります。そこで課題になるのが外国人とのコミュニケーションです。外国人とのコミュニケーションというと、語学力(英語)という認識が支配的です。しかし、日本人と働く外国人に聞いてみると、日本人の語学力を問題視する人はそれほど多くはありません。それよりも、もっと困っていることがあるのです。外国人は日本人に対して次のようなフラストレーションを感じているのです[5]

  • 日本人の「Yes」は必ずしも「Yes」ではない。
  • 日本人は「No」と言わない。
  • 積極的にリスクを取ろうとしない。
  • 変化を歓迎しない。
  • 細部にこだわり過ぎて、スピード感がない。

このような不満は語学力を強化しても解消しません。外国人との間に生じるこのような問題を克服するためには、異文化理解のスキルが必要になります。なぜならば、このような問題が生じるのは、文化の違いに因るからです。

異文化理解の方法論は、文化の違いを理解するために有効な手掛かりとなる軸(これを文化的次元と言います)を通して国による文化的特徴を明らかにします。代表的な文化的次元として、次のようなものがあります。

  • 言語への依存度(言語中心 vs. 非言語も大事)
  • 対立への姿勢(対立を気にする vs. 気にしない)
  • 役割の明確度(役割を決める vs. 何でもやる)
  • 意思決定プロセス(トップダウン vs. コンセンサス)
  • リスクへの態度(リスク志向 vs. リスク回避)
  • 時間概念(時間は貴重 vs. 時間はある)

文化的次元を通して相手の文化的背景を理解し、それに基づいて効果的なコミュニケーションを考えていくのです。
異文化への対応は、グローバルビジネスだけなく、ダイバーシティにも欠かせないテーマになります。そのため、異文化理解のスキルの重要性は今後さらに増していくでしょう。

(図表)マネジャーに求められるソフトスキル(5)

[5]ポジティブな印象もたくさんあります。代表的なものを挙げると、礼儀正しい、勤勉、親切、信頼できる、協力的、忍耐強いなどです。

3. まとめ

エンゲージメントの問題、働き方改革、AIの進化、といった日本企業の置かれている状況を打開する鍵は、ソフトスキル(ヒューマンスキル)が握っています。

ソフトスキルとは、ヒトに関するスキルを指します。ヒトに関するスキルは多岐にわたるので、ビジネスリーダーが優先すべきソフトスキルを特定するためには、マネジャーの役割を規定する必要があります。

ミンツバーグによると、マネジャーの戦略的役割は組織の中でハブとして機能することです。マネジャーがハブとして効果的に機能するためには、社内、社外の関係者との間に生産的な関係性を構築する必要があります。
そのために求められるソフトスキルは次のようになります。

  • 対部下
    ・フィードバック
    ・権限移譲
    ・キャリアデザイン
    ・チームビルディング
    ・ダイバーシティ
    ・ストーリーテリング
  • 対トップ、社内他部署
    ・アサーティブコミュニケーション
  • 対社外
    ・ネゴシエーション
    ・異文化理解

ビジネスリーダーには、ソフトスキルを磨いて来るべきAI時代においてリーダーシップを発揮してもらいたいと思います。

■ 著者情報

山本 和隆
経営コンサルタント
ジャパンインターカルチュラルコンサルティング日本代表

ライトワークス 取締役
旭硝子、モトローラ㈱ 経営戦略部長、フューチャーシステムコンサルティング㈱ ディレクター、Rhodia Electronics & Catalysis General Manager、スミダ電機副社長などを経て現職。
一橋大学経済学部卒、シカゴ大学経営大学院修士課程修了(MBA)。
主な著書に「新版 グロービスMBAファイナンス」(ダイヤモンド社)、「ファイナンス入門講義」(日本経済新聞出版社)、「MBA式考える文章術」(東洋経済新聞社)、「経営戦略」(ファーストプレス)などがある。 

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