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「Googleで最高のマネジャーになるための8つの習慣」 鍵を握るのはやはりソフトスキルだった

「よいマネジャーになるためにはどうしたらよいか?」

ビジネス界では昔から最大の関心事でありながら、誰も正解を知らないこの世紀の難問に挑戦したのが21世紀を代表する企業であるGoogleです。その最終解答が「Googleで最高のマネジャーになるための8つの習慣」というわけです。Googleのユニークなところは、大量のデータを分析して結論を導くというGoogleならではのアプローチにあります。ヒトに関する言説の多くが個人的な見解の域を超えていない中で、データに基づいたGoogleの結論には説得力があると言えます。

本稿では「Googleで最高のマネジャーになるための8つの習慣」(以下8つの習慣)を解説するとともに、8つの習慣を身に付けるための方法について紹介します。


1. 「Googleで最高のマネジャーになるための8つの習慣」の中身

Googleは「8つの習慣」を重要なものから順番に列挙しています。早速、その中身を紹介しましょう。それはGoogleをして「自分たちが一番驚いた」と言わしめるほどのインパクトがありました。読者の方もGoogleとは違う意味で驚くと思います。

習慣1 よいコーチであれ。

  • 具体的で、建設的なフィードバックをする。
  • ネガティブフィードバックとポジティブフィードバックをバランスよく行う。
  • 定期的に1対1の対話をし、部下の強みに合わせた問題の解決方法を示す。

習慣2 部下に権限を委譲せよ。マイクロマネジメントはするな。

  • 部下に自由を与える。同時に、よき相談相手になる。
  • チャレンジできるようにストレッチした課題を与える。

習慣3 部下の成功と幸せに関心を持て。

  • 仕事以外も含めて部下を人間として知るようにする。
  • 新人を温かく迎え入れて変化のストレスを減らす。

習慣4 くよくよするな。生産的で結果志向であれ。

  • チームに達成して欲しいこと、及び、どうすれば部下が達成できるかに集中する。
  • チームが優先順位を付けて働けるようにし、障害を取り除く意思決定をする。

習慣5 よいコミュニケーターであれ。そしてチームの声を聞け。

  • コミュニケーションは双方向。聞くことと共有すること。
  • 全員参加の会議と具体的なチームのゴール。
  • オープンな対話を督励し、部下の質問と関心に耳を傾ける。

習慣6 部下のキャリアについてサポートせよ。

習慣7 明確なチームのビジョンと戦略を持て。

  • 不安と動揺の中でもチームのゴールと戦略にフォーカスする。
  • ビジョン、ゴール、進め方の策定にチームを巻き込む。

習慣8 チームにアドバイスができるように技術的なスキルを磨け。

  • 必要なときはチームと一緒になって働く。
  • 仕事に関わる具体的なチャレンジを理解する。

Googleは、「自分たちはテクノロジーの会社で、放任主義でこそ力を発揮するエンジニアの深い専門的スキルが組織の原動力になっている」という自己認識をしていました。そのため、専門的な技術スキルの重要性が一番低いということに衝撃を受けたのです。

一方、読者の方は、世界の最先端を走るGoogleだから異次元のことをやっていると思いきや、8つの習慣が大昔から散々言われていることとなんら変わらないことに驚いたと思います。言い方を変えると、8つの習慣の有効性はGoogleに限った話ではなくて、普遍性があると言えるでしょう。


2. 「8つの習慣」はどのようにして生まれたか?

Googleが「8つの習慣」を生み出した動機は、「もっとよいマネジャーを作りたい」という極めてシンプルなものでした。Googleは世界で最も優れた会社という評価を得ていましたが、社員の多くはナード(nerd:いわゆるオタク)と揶揄されるITエンジニアで、マネジャーに向いている人間が多いというわけではなかったのです。こうして2009年にプロジェクトOxygen(酸素)を立ち上げ、1年をかけて8つの習慣を導いたのです。

プロジェクトOxygenは「従業員が会社を辞めるのには3つの理由がある」という基本認識に基づいてスタートしています。

 ①  会社のミッションと自分の仕事との関連性が見えない。自分の仕事が大事だと感じられない。
 ②  職場の人間を好きになれない、尊敬できない。
 ③  上司がひどい。

そして、③が最も重大な変数だとされました。と言うのも、Googleでは四半期ごとに上司と部下が人事考課をするのですが、そのデータから、部下による上司の評価のばらつきの幅が非常に大きいこと、そして、部下のパフォーマンスと仕事に対するエンゲージメントに対して上司の影響が一番大きいことがわかったからです。

プロジェクトOxygenは、人事考課、フィードバックサーベイ、表彰、その他のリポートなどからマネジャーに関する1万件に及ぶデータを集め、そこから100の変数を抽出しました。そしてデータの中からパターンを見出して、仮説を構築し、仮説を踏まえてマネジャーとのインタビューを実施し、仮説の検証とバージョンアップを繰り返しました。インタビューノートは400ページに及んだとのことです。その結果が8つの習慣に結晶化されたのです。


3. 「8つの習慣」を身に付けるための方法

「8つの習慣」を踏まえてGoogleはマネジャーに対するトレーニングプログラムを策定しました。残念ながらその内容は公表されていません。そこで、「8つの習慣」を身に付けるために必要となるスキルについて整理をしてみました。そのようなスキルを身に付けることによって、8つの習慣を効果的に実践することが可能になるのです。

8つの習慣のうち相対的に重要性の高い1番目から6番目までの習慣を実践するためにはヒトに関するスキルが求められます。つまり、ソフトスキルです。マネジャーにとっては、テクニカルな専門性が求められるハードスキルよりもソフトスキルが大事だということです。
(ソフトスキルの詳細は、AI時代を生き抜くためにリーダーに求められるソフトスキルの記事参照のこと)

1番目の習慣である「よいコーチであれ」については、フィードバックが鍵を握ることが述べられています。つまり、よいコーチになるためにはフィードバックのスキルを身に付ければよいということです。Googleの考えでは、これが最も重要なことになります。

フィードバックとは、「相手の行動に関して自分の意見を言葉で伝達する方法」と定義されます。それは相手を大切に思い、成功するように援助したいという気持ちの表れでもあります。そうすると、3番目の習慣である「部下の成功と幸せに関心を持て」も本質的にフィードバックと関連していることになります。

フィードバックには肯定的なもの(ポジティブフィードバック)と改善を促すもの(ネガティブフィードバック)があります。ポジティブフィードバックは、部下が望ましいと思われる行動をした際に、それを具体的に指摘して、何がどうよかったかを言葉で伝えることです。それは部下を褒めるということではありません。褒めるというのは大人が子供に対して行う行為であって、大人同士でやるものではありません。「褒める」ではなくて、「認める」ということです。人間にとって他者から認められたいというのは非常に高次元の欲求です [1]ポジティブフィードバックは、人間の高次元の欲求を満たすことによって部下のエネルギーを引き出すことになるのです。

日系企業で働くアメリカ人社員が日本人の上司に対して感じる最大の不満は、ポジティブフィードバックがないことです。「担当業務はちゃんとやって当然。いちいちよかった点を言う必要なんかない」というのが日本流ですが、そのような理屈が通用するのは日本のオールド世代だけだということを認識する必要があります。

ネガティブフィードバックは、部下の問題となる行動を指摘して、どこをどのように改善したらよいかを言葉で伝えることです。それは部下にとって学習や成長の機会になります。ミスをした部下に対して反射的に叱ったり、人間性に対して否定的な発言をしてしまったりすることがあります(「真剣にやっているのか」など)。しかし、ネガティブフィードバックはあくまでも問題のある行動についての改善提案を述べるものなのです。「叱る」のではなくて、「指導する」ということです。ネガティブフィードバックは部下を指導する技術なのです。そのような技術がないマネジャーは、パワハラに走るか、パワハラを恐れて部下に対して消極的な態度を取るか、のどちらかになります。

リスクを取らない限りリターンはないというのがビジネスの本質です。リスクを取るということは失敗もするということです。したがって、失敗から学んで成長できるかどうかがビジネスの勝負どころとなります。失敗した部下に改善を促すネガティブフィードバックを行って部下の成長を支援することは、マネジャーにしかできない大事な仕事なのです。
(フィードバックの詳細は、部下をヤル気にする最強のツール「フィードバック」の記事参照のこと)

2番目の習慣の「部下に権限を委譲せよ」は文字通り権限委譲ということです。権限委譲というと上司が自分の権限を部下に切り分けるというイメージがあるかもしれませんが、それは権限委譲の本質ではありません。権限移譲とは、部下に仕事を任せることで、部下が成長し、組織も成長することなのです。そのためには、部下に任せる新規プロジェクトを考案したり、部下がイノベーションを起こしやすい組織風土を創造したりする必要があります。それがマネジャーにとっての権限委譲の具体的な仕事になります。

権限委譲は人間の究極の欲求である自己実現の欲求と関係します。ビジネスライフにおいて自分が「一皮むけた」と実感したときのことを振り返ってみてください。必ず「チャレンジングな仕事を任されて、それをやり切った」というポジティブな体験が思い出されるはずです。そのときにプロとして自己実現の手ごたえがあったからこそ、忘れがたい経験となるわけです。権限委譲は部下の高次元の欲求を満たすことでエネルギーを引き出すことになるのです。
(権限委譲の詳細は、リーダーになるすべての人に知って欲しい 権限委譲で戦略的に組織のパフォーマンスを上げる方法の記事参照のこと)

4番目の習慣の「くよくよするな」は、くよくよしないで、チームとしての具体的目標の達成に集中するということです。チームの目標を達成するためにはお互いに助け合う必要があります。そのためには、風通しのよいコミュニケーションが不可欠となります。それが5番目の習慣である「よいコミュニケーターであれ」になります。このように4番目と5番目の習慣はチームと関係しているので、チームビルディングが鍵を握ることになります。人間が集まって集団を形成したからといってチームになるわけではありません。人間の集団が個々人の能力の限界を超えた力を発揮するのがチームです。そのためにはチームビルディングのスキルが必要になります。

経験豊富なリーダーがトップダウンで的確な命令を部下に下してチーム全体の行動を統制するのがオールドエコノミーにおけるチームビルディングでした。しかし、変化の激しいニューエコノミーにおいてそのようなやり方は通用しません。不確実な環境では試行錯誤を繰り返しながら最適解を見つけて行くしか方法はないのです。そのためには、チームのリーダーは謙虚な姿勢で何事も率直に話し、メンバーの声をよく聞いてアイデアを共有する必要があります。これがニューエコノミーにおけるチームビルディングなのです。
(チームビルディングの詳細は、リーダーになるすべての人に知って欲しい チームビルディングの極意の記事参照のこと)

6番目の習慣の「部下のキャリアについてサポートせよ」はキャリアデザインのことです。長期雇用を基本政策としてきたかつての日系企業において、社員のキャリアをデザインするのは会社の仕事でした。会社から命じられた人事異動に従っていれば、誰もが安心して定年まで仕事ができました。キャリアのことは真剣に考えなくてもよかったのです。しかし、今日では大企業でも社員のキャリアを定年まで面倒を見きれなくなっています。自分のキャリアは自分で責任を持たなければならない時代になっています。そのため、現役で活躍する期間がマネジャーよりもはるかに長い若手社員にとってキャリアデザインは切実な問題となっています。

マネジャーがキャリアについて部下のよき相談相手になるためには、自分のキャリアを振り返るところから始めるとよいでしょう。キャリアを積めば、誰でも山と谷、光と影があるのがビジネスライフです。さまざまな節目で自分なりに学んだことを部下に伝えるのは先輩としての務めと言えるでしょう。また、「どうしたら一人前になれるのか」という若手社員にとっての一大関心事に対して自分なりに深く考えることもよいでしょう。正解があるわけではないので、部下が期待するのは正しい答えではありません。大事な問題を一緒に考えてくれるという信頼感が期待されるのです。
(キャリアデザインの詳細は、リーダーになるすべての人に知って欲しい 部下を育成するキャリアデザインの記事参照のこと)

7番目と8番目でようやくテクニカルな専門性が問われるハードスキルが登場します。これについて大きな心配はないと考えます。なぜならば、マネジャーの方は担当者のときにハードスキルで力量を発揮したからこそ、会社に評価されてマネジャーに昇格したからです。今後もそのスキルを継続的に鍛えて行けばよいのです。

 

[1] 心理学者のマズローによると、人間の欲求は5層構造となっていて、低い方から順番に、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、自己実現の欲求となる。より高次元の欲求を満たそうとすることが人間のモチベーションとなっていて、承認の欲求は第4段階となる。


4. まとめ

Googleがデータ分析を駆使して導いた「Googleで最高のマネジャーになるための8つの習慣」は、あたかも論語の教えが今日でも輝きを失わないように、時代や地域を超えた普遍性があると思われます。そこにおいて鍵を握るのはソフトスキルです。最高のマネジャーになるために磨くべきソフトスキルを具体的に挙げると次のようになります。

  • フィードバック
  • 権限委譲
  • チームビルディング
  • キャリアデザイン

最高のマネジャーになりたいと願うのはマネジャーだけではありません。部下だって最高のマネジャーの下で働きたいと思っているのです。マネジャーの方は、ソフトスキルを磨くことで部下の期待に応えてほしいと思います。

<参考文献>
・ブライアント,アダム(2011)「Google’s Quest to Build a Better Boss」 ,『The New York Times』,2011年3月12日.
・ラジアー,エドワード・ギブス,マイケル(1998)「人事と組織の経済学」(樋口美雄・成松恭多・杉本卓哉・藤波由剛訳)日本経済新聞出版社.

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