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高校卒業後、すぐに大学には行かない ドイツ人の「ギャップイヤー」の過ごし方

ギャップイヤーとは、進学や就職といった節目の前に社会奉仕活動などをして過ごす期間のことです。日本ではあまりなじみのない仕組みですが、欧米では制度として社会に浸透しており、多くの学生が大学進学前、就職前に何らかの社会経験をして過ごします。2016年にオバマ元米大統領の娘マリア・オバマさんがこの期間を過ごしたことで一時話題にもなりました。

日本では長年、新卒一括採用・終身雇用の慣習があり、終身雇用制が崩壊した後も長い間、新卒一括採用が続けられてきました。その中で就活生には、空白のない学歴欄、会社の色に染まりやすいまっさらな経歴が求められてきましたが、近年は一転、人材市場の流動化が進み、新卒一括採用を廃止する企業も増え、「個」を重視する方向へ一気に進んでいます。

一方、ドイツにはもともと、日本でおなじみの大学の入学式や卒業式、入社式の習慣はありません。全員が同系色のスタイルに身を包んで同時期に勤しむ「就活」の習慣もありません。
大学入学資格試験(アビトゥーア)が終わり、高校卒業が決まったら、高校生たちが自発的に開催するアビ・パーティーが各所で盛大に開催されますが、それ以降の人生は各自さまざまなリズムで進んでいきます。
高校を卒業した若者の多くが、そのまままっすぐ大学に行くのでなく、1年程度の「ギャップイヤー」を過ごす習慣がドイツにはあります。彼らはなぜギャップイヤーを過ごすのでしょうか? そのメリットはどこにあるのでしょうか? 

ここに、日本の人材市場がこれから変化していく先のヒントがあるように思えます。ギャップイヤーの過ごし方や、個人と企業にもたらされる恩恵について、ドイツでの例を取り上げながら解説していきます。


1. さまざまなギャップイヤーの過ごし方

ドイツ大学研究センター(DZWH)の調べでは、2015年に大学入学資格を取得して高校を卒業した若者のうち、大学進学希望者は74%。しかし卒業後すぐに進学したのは50%でした。16%は職業訓練を始めています(職業訓練を受けて資格を取得してから大学に進学するパターンもあります)。
一方で45%が、「高校卒業後、いったん休みたい」と回答。38%が「このあとどうするか、まだ決めていない」としており、28%が「長期間、外国に行きたい」、23%が「社会奉仕活動をしたい」と回答しています。「アルバイトしてお金を稼ぐ」は21%、「インターンシップなどに参加する」は12%でした(複数回答可)。

この、高校卒業後「いったん休みたい」、「このあとどうするか、まだ決めていない」と回答する若者の割合は、2012年の調査と比較して増加傾向にあるのが実情です。

それでは、高校を卒業した後、どのような過ごし方をしているのでしょうか。主な活動を4つ紹介します。

1-1. オーペア

オーペアとは、外国でホームステイしながら、住み込み先の子どもの世話をしながら生活する、若者向けの留学制度で、専用のビザがあります。ホームステイ先で住む場所と食事を提供してもらえるほか、受け入れ先によって額は異なりますが、小遣い程度の手当てを支給されます。
専門のエージェントや、オンラインプラットフォーム(https://www.aupairworld.com/de)を通して申し込むことができます。ドイツでは年間2万人がこの制度を利用しており、18歳(ドイツでの成年)から申し込み可能です。
圧倒的に女性の利用者が多く、男性の利用者はわずか10%。前提条件として、ある程度現地での言語(おもに英語)が堪能であることが求められ、さらには子どもの世話をした経験があることや、運転免許証の所有が求められることも多いです。ドイツからの同制度利用は、オーストラリア、ニュージーランド、英国、米国などの英語圏が人気です。

1-2. 社会奉仕活動

16~27歳の若者を対象に組まれている公的な社会奉仕活動に、「自発的な社会奉仕活動の年(FSJ)」と呼ばれるプログラムがあります。半年~18カ月までの期間で参加することができ、プログラムには病院や幼稚園、老人ホームや教会などでの奉仕活動があり、希望の業種を選べます。また、文化的な分野に特化した奉仕活動も可能で、劇場やミュージアム、ラジオ局などでの活動もあります。
FSJに参加すると、「社会奉仕活動中」という身分証明書が発行され、ドイツ国内での鉄道や公共施設での割引が適用されます。この期間、得られる収入は住居費手当などが出る場合を除いて200~450ユーロ(約23,000~53,000円)程度。このためFSJに参加する若者はこの期間、家賃を払う必要のない実家に住みながら社会奉仕活動をする場合がほとんどだそうです。
2015年に同制度を利用した人の数は2万4508人です。

(※本稿執筆時点、1ユーロ=117.31円で換算)

1-3. 途上国開発支援

連邦経済開発省による、開発国支援プロジェクトのボランティア活動。18歳から参加可能です。
プロジェクトの42%は中南米で、37%はアフリカ、19%はアジア。渡航費など必要経費は支払われますが、手当はありません。2015年の時点では1万人の応募があり、3418人が選ばれました。

1-4. ワーキングホリデー

ワーキングホリデービザを取得すれば、最大12カ月、外国を旅行しながらアルバイトで収入を得ることができる制度です。対象年齢は18~30歳(カナダのみ35歳まで)。ドイツ人に人気の国はオーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ、南アフリカです。このほか、アルゼンチン、日本、韓国、香港、台湾ともワーキングホリデー協定が締結されています。
ワーキングホリデーの特徴は、上記のオーペアと比べて自由度が高いこと。現地での健康保険に加入する必要がありますが、受け入れ先や渡航プランを明確にする必要はなく、現地でのコストはすべて自分持ちとなります。


2. 人気が高まる「社会奉仕活動」の歴史

近年、人気が高まっているFSJの原型は、もともとカトリック教会での奉仕活動にありました。1954年以来、バイエルン州のカトリック教会では、18歳以上の女性たちが病院や老人ホームで社会奉仕活動を行なう制度がありました。これが1961年以降、当時の西ドイツ全土のカトリック教会で「教会のための奉仕年」として普及、1962年からはプロテスタント教会も同様の制度を開始しました。
一方、男性の場合は、兵役の代替業務としての社会奉仕活動が義務付けられていましたが、兵役自体が2011年7月1日をもって廃止されたため、代替業務の社会奉仕活動義務もなくなり、FSJがこれに代わることになりました。FSJが制度として法制化されたのは2008年から。FSJは16~27歳までを対象年齢としていますが、一方で年齢制限を設けず27歳以上の人でも参加できる「連邦奉仕活動(BFD)」という制度もあります。


3. ギャップイヤーが人材市場にもたらす価値とは

ギャップイヤーは以下のように定義されています。

*高校卒業後、何をしたらいいのか分からない、自分にどんな能力や適性があるのか分からないという若者が、自分自身の進路について考えをめぐらせる期間。
*進路に悩む若者が、社会経験を積みながら人と関わり、能力や適性を見定める期間。
*希望の進路は決まっているが、少し休んで切り替える期間。
*希望の進路(医学部などの難関)に進むのに、大学の定員がいっぱいで待機しなければならない期間。

また、ギャップイヤーに何をするのかによって、次の進路に進む上での長所となる場合もあります。

特にFSJは履歴書に書くことで、机上の勉強以外の社会経験を積んだことが実証されます。
たとえばFSJでミュージアムでの社会奉仕活動を経験した場合、大学で美術館学などを勉強する際にこの経験をインターンシップとしてカウントしてもらうことができます。
医学部進学希望者は、待機期間中に病院や救急医療の現場での社会奉仕をすることが、履歴書上のプラスポイントとして、大学入学資格試験の点数と別途に加算されることになります。

ドイツでは、ギャップイヤー以前に高校時代の過ごし方においても、「学内オーケストラに入って音楽活動をしていた」「社会奉仕活動に積極的に取り組んだ」「留学を経験して語学力を磨いた」「スポーツクラブで活動した」などの経歴が、学業成績と並んで重要視されます。
これによって、「文化的素養を身に着けているか」「協調性や社会性を育んできたか」「自立した人間としての成長を遂げているか」「自己管理能力があり、心身ともに健康か」などの人間力を推し量ることができるからです。

社会性があり文化的な暮らしを営んでいるかどうかは、大人になって社会に出てからも重んじられます。
労働条件においても、「仕事の一方で個人の家庭生活を営む以外に、人には社会生活を営む時間も必要」とのワークライフバランスを重んじる考え方がドイツにはあります。

高校を卒業したばかりの18歳は、ドイツの成年でもあります。成年を迎えるとドイツでは法律上、親が子どもに対して一切の干渉をすることができなくなり、子どもの人生の選択は本人たちに委ねられます。このタイミングでのギャップイヤーは、いわば人生の入り口に立ったばかりの彼らが、大人として一番最初に行う選択であるとも言えます。

ギャップイヤーが人材市場にもたらす意味は、大学進学前にFSJなどを通して社会経験を積むことで、より明確な意志と考えを持ってその後の進路を選択する人材が育っていくことにあります。また就職してから転職や育児休暇などを選択する場面においても、ギャップイヤーを経験した人たちは「転換すること」「一度立ち止まって考えること」の意味を知っており、ワークライフバランスの重要性を知っている人たちであるとも言えます。


4. まとめ

ギャップイヤーは、若者たちがはじめて学校の外に出て社会というものを経験し、その中で生きることを通して自分の人生の目的をより明確にし、理想と現実の違いを知り、自分自身の適性や能力を見極める機会であるといえます。
また、ワークライフバランスを考えてその後の人生を設計することは、より自発的に幸福追求をすることでもあり、仕事をする上でもより積極的かつ自発的な人材が増えていくことにつながります。それによって、社会も個々の人生もより豊かになっていく……若者たちがギャップイヤーをどのように過ごすのか、また社会がギャップイヤーを過ごす若者に対してどれだけの投資と支援を行うのかが、より豊かな社会を作っていく鍵となると見られています。

<参考文献>
https://www.einstieg.com/gap-year/detail/bundesfreiwilligendienst-fsj-und-fsj-kultur.html
https://www.bundesfreiwilligendienst.de/servicemenue/presse/statistiken.html
https://bildungswege.dzhw.eu/ergebnisse
https://www.zeit.de/campus/studienfuehrer-2017/abitur-freiwilligendienst-studienentscheidung-fsj-foej
http://www.fsj-hessen.de/freiwilliges-soziales-jahr/welche-vorteile-bringt-das-fsj
https://www.spiegel.de/lebenundlernen/schule/abiturienten-in-deutschland-ein-drittel-braucht-erstmal-eine-pause-a-1167653.html
https://www.zeit.de/campus/studienfuehrer/2018/gap-year-abitur-auszeit-freiwilligendienst-au-pair
https://www.spiegel.de/lebenundlernen/uni/studium-nach-dem-abitur-wollen-80-prozent-an-die-uni-oder-fh-a-975890.html
https://www.bz-berlin.de/berlin/deshalb-wollen-so-viele-schueler-nach-dem-abi-erst-einmal-eine-pause
https://www.morgenpost.de/berlin/article207454255/Was-kommt-nach-dem-Abitur.html

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