企業内大学とは、大学の講座のように従業員が受講科目を選択できる、企業内の研修制度のことです。コーポレートユニバーシティー(CU)とも呼ばれます。
新人からベテランまで、企業から研修を受けるよう指示される機会は数多くあります。
その中で、自分でテーマを選びたい、もっとキャリアアップに役立つようなことが知りたい、と考えたことはありませんか?
それを実現するのが、「企業内大学」です。
従来の受動的な研修とは異なり、従業員が自身の目標やキャリアアップのため、必要な講座を自由に選択することができます。
企業内の研修といえば、将来の幹部候補やリーダー育成のため、選ばれた従業員が対象となるもの、というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
現在は、少子化やグローバル化による人材不足に対応するため、全従業員を対象として、研修の種類や内容を充実させ、能力の底上げを目指す方向にシフトしています。
今後も人材不足の問題はますます深刻になっていくと予想される中、企業内大学は、優秀な人材を育成し、人材不足を解決する方法として注目されています。
本稿では、企業内大学の概要とメリット、運用のポイント、導入事例をご紹介します。
目次
1. 企業内大学とは
企業内大学とは、従業員が自身の目標やキャリアプランに合わせて、必要な講座を選択して受講できる、企業内の研修制度のひとつです。
企業によって制度の詳細は異なりますが、大学の講座のように必修科目と選択科目が用意されているのが代表的な形式です。
少子化やグローバル化により人材獲得競争が激しくなる中、人材を大量採用し、その中から優秀な従業員を選抜するという手法は難しくなっています。
そこで、内部で優秀な人材を育成するための仕組みが企業内大学なのです。ここでは、全従業員が対象とされ、リーダー層だけでなく、一般の従業員が専門知識を深めたり、キャリアアップを図ったりすることが可能です。
2. 企業内大学のメリット
企業内大学を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。企業、従業員の立場から見ていきましょう。
2-1. 企業側:人材育成・確保に有効な仕組み
企業側には、以下のようなメリットがあります。
① 人材不足の解消
将来的にも人材不足は続くと予想されるため、内部での人材育成がさらに重要になります。
企業が求める能力を得るためのカリキュラムを用意することで、その業務やポストに必要な人材を育成することができます。
② 従業員の能力の底上げ
全従業員を対象とすることで、能力の底上げが期待できます。
ほしい人材を潤沢に得ることが難しくなっている現在、全従業員が専門知識を深め、優秀な戦力になり得ることは事業戦略の上でも心強いことです。
③ 求職者へのアピール
近年は売り手市場です。人材確保のためには、求職者に選ばれる企業になる必要があります。企業内大学を設置していることで、求職者からは従業員の育成を重視し、キャリアアップを支援する企業と好意的に受け止められ、企業選定の際の魅力的な要素となります。
企業内大学は、企業に必要な人材を育成するだけでなく、優秀な人材を確保するために有効な仕組みといえます。
2-2. 従業員側:スキル向上やキャリアアップの機会に
従業員側には、以下のようなメリットがあります。
① キャリアアップにつながる
企業内大学では、能力や業務によって、多種多様な講座が用意されています。
自身が設定した目標を達成するため、また将来のキャリアプランを実現するための講座を自ら選んで受講できます。
② 誰でも学びの機会が得られる
全従業員が受講対象とされていて、在職年数に関わらず、誰でも受講することができます。自身が望めば望むだけ、スキルアップが可能です。
③ 横のつながりができる
普段は顔を合わせない部署の従業員同士で議論したり教え合ったりすることで、コミュニケーションが活発になります。他部署の仕事について知ったことを、自身の日常業務に活かすこともできます。
④ 講師となることでの学びがある
企業によっては、独自の基準で認定した従業員を講師として登壇させる制度があります。
一般的な理論だけに収まることなく、実際の現場のノウハウを受講者に伝えることができます。また、講義をするには念入りな準備が必要になります。その過程で自身の業務を整理したり、さらに知識を深めたり、講師となる側にもさまざまな学びがあります。
従業員にとっては、業務関連のスキル向上やキャリアアップに役立つほか、新たな人脈の構築も可能になります。
3. 企業内大学導入の際の注意点
企業内大学の導入にあたっては、カリキュラムの設定、講師の選定、会場の確保など新たに決めなくてはならないことが多くあります。自社がかけられるコストと人員について、よく検討する必要があります。ただ、コストについては、将来のための投資として理解することもできるでしょう。
企業の将来を見据えて、自社に合った企業内大学の体系を整えることが重要です。
4. 企業内大学の運用ポイント
企業内大学を効果的に運営するためのポイントとして、以下のようなことが挙げられます。
① 専門知識のある人物が講師を務める
企業内大学はその多くが、人事部ではなく独立した部署により運営されています。講師についても、従来の企業内研修であれば人事部員が主でしたが、企業内大学の講座では、その内容について専門性を持った部署や人物が講師となります。そうすることで、クオリティの高い講義が可能になります。
講師は外部の専門家や企業内で認定された従業員のほか、経営者自らが登壇することもあります。
② パートや派遣社員も対象とする
企業によってさまざまな規則がありますが、パートや派遣社員も含めた全従業員を対象にすることで、企業の方針が隅々まで行き届き、さらなる従業員の能力の底上げにつながります。
③ 目標管理の制度を導入している場合は連動させる
上司は、部下の目標やキャリアプランを共有し、達成に向けて指導する必要があります。
従業員が受けた講座を上司も確認できるようにしておくと、目標達成への進捗がわかりやすくなったり、目指したい方向に役立つ講座の受講を勧めたりなど、より効果的な指導が可能になります。
④ さまざまな形態の学びを用意する
従業員それぞれのニーズに合わせられるよう、eラーニングや集合研修など、さまざまな形態の学びを用意することも効果的です。eラーニングと集合研修を併用した研修スタイルである、ブレンディッド・ラーニング(Blended learning)というものもあります。
学びの機会を提供するだけでなく、学んだことを活かせる仕組みを整えることで、企業内大学の効果は最大限に発揮されるのです。
5. 企業内大学を導入した企業事例
企業内大学は、実際どのように導入・運用されているのでしょうか。特徴的な企業内大学を導入した企業の事例をご紹介します。
5-1. 東芝デジタルソリューションズ株式会社
2002年、国内に企業内大学がほとんどなかった頃に、ビジネス環境の変化に対応し、人材開発上の課題を解決することを目的として、全従業員参加型の「Toshiba e-University(以下、eユニバーシティ)」を設立しました。
同社のeユニバーシティには、通常の大学と同じように学部があります。「ITスペシャリスト学部」、「プロジェクトマネジメント学部」などの中から、受講者が自分の目指すキャリアに沿って所属を決める制度です。
カリキュラムは、専門教育と基礎教育に分けられており、集合研修やeラーニングなどの中から、個別のニーズに応じた研修が受けられるよう工夫されています。
eラーニングと集合研修を絡める、ブレンディッド・ラーニングの手法も取り入れています。従業員の職種や繁忙期の違いにより集合研修が難しい場合があるため、eラーニングでできる部分はeラーニングでカバーし、より教育効果が高まる場合に集合研修をブレンドするという形式です。同社は、手法にこだわるのではなく、より効果的・効率的な教育を追及していくことが大切であり、今後は書籍での学びやSNSによるコミュニケーションも連動させた、より多角的なマルチ・ブレンド・ラーニングも検討したいとしています。
eユニバーシティの特徴は、「学習する組織」をつくるシステムがあることです。
従業員は企業内のイントラネットから、eユニバーシティの「マイスタディールーム」にアクセスし、学習状況を確認したり、講座申し込みをしたりすることができます。
上司が部下のページにアクセスして学習状況の確認や、講座を推奨することも可能です。両者は、目標管理面談の際に育成課題や教育方針を共有しますが、eユニバーシティを通して日々の育成がされています。
同社では、eユニバーシティを全従業員が共有することで、同じ人材育成方針でキャリアの構築をすることが可能になりました。
5-2. 株式会社ジュピターテレコム
受講必須の研修を増やした結果、従業員が学ぶことに受動的になってしまうという問題点を受け、2017年にJ:COMユニバーシティが設立されました。その目的は、自主的に学び、同社の将来を自身のことのように考えられる従業員の育成にあります。
J:COMユニバーシティでは、受講必須の研修は必修科目としたうえで、従業員自身の部門にかかわらず、自由に学べる選択科目が数多く用意されています。
また、同社では他部門についての学びを推進しています。例えば、営業部門の従業員が技術に関する研修を、電力事業に関わっている従業員が映画配給に関する研修を受ける、というものです。他部門の仕事について知ったことを自身の仕事に活かすだけでなく、他部門の仲間と刺激を与えあうことで、同社の良さを再発見できるからです。
学部制をとり、学部長に各部門の元責任者の定年再雇用者を置いているのもJ:COMユニバーシティの特徴です。
学部長を務めているのは、同社が創業した1990年代に第一線で活躍した従業員です。J:COMユニバーシティを通じて、定年退職を迎えた世代の専門的な知識が次代に継承されることができるようになりました。
学部長はどんな内容の講義も用意することが可能で、従業員を講師として指名して登壇させることも、人脈を活かして外部の講師を招くこともできます。このような自由な学びと出会いにより、J:COMユニバーシティの目的の1つである「研修のみんな化」を図っています。
将来的には、企業内のことだけでなく、業界内外についても広く学べるよう、多彩なカリキュラムを用意するほか、講師となる社員のスキルを高め、業界内外にも講座を提供したいとしています。
6. まとめ
企業内大学とは、大学の講座のように従業員が受講科目を選択できる、企業内の研修制度のことです。従業員が自身の目標やキャリアアップのため、必要な講座を自由に選択することができます。
その対象は、リーダー層だけでなく、全従業員とされています。
少子化やグローバル化により人材獲得競争が激しくなっている現在、内部で優秀な人材を育成することに注力する必要があるからです。
企業内大学には、以下のようなメリットがあります。
◆企業側のメリット
① 人材不足の解消
② 従業員の能力の底上げ
③ 求職者へのアピール
◆従業員側のメリット
① キャリアアップにつながる
② 誰でも学びの機会が得られる
③ 横のつながりができる
④ 講師となることでの学びがある
なお、企業内大学設置の際は、コストと人員の負担を考え、自社に合った体系を検討することが重要です。
企業内大学を効果的に運営するためのポイントとして、以下のようなことが考えられます。
① 専門知識のある人物が講師を務める
② パートや派遣社員も対象とする
③ 目標管理の制度を導入している場合は連動させる
④ さまざまな形態の学びを用意する
企業内大学で全従業員が自主的に学び、その能力が底上げされることで、企業の成長にもつながります。
労働人口の減少は今後も続くと予想されるため、優秀な人材を育成し確保しておくためにも、企業内大学の設置について考えてみてはいかがでしょうか。
参考)
企業内大学(コーポレートユニバーシティー)とは
https://hrd.php.co.jp/shainkyouiku/cat21/post-518.php
企業内大学「Toshiba e-University」に見る「学習する組織」の構築
https://www.toshiba-sol.co.jp/business/gene/pdf/20120701_eUniv.pdf
全社員参加型企業内大学「Toshiba e-University」の取り組み
http://efm.toshiba.co.jp/business/gene/pdf/20140701_eUniv.pdf
J:COMはなぜ企業内大学をつくり「教え合う文化」を育むのか ジュピターテレコム(1)
https://diamond.jp/articles/-/176337
学びを「ジブンゴト化」できる社員が成果をあげる ジュピターテレコム(2)
https://diamond.jp/articles/-/176466