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業種別コンプライアンス教育(7) マスコミ・メディア業に必要な対策は

「報道は信用が命。最近はネットニュースやSNSなど情報発信の媒体が増えていて、組織的な統制にほころびが生じていないか大変心配だ。何か良い手はないだろうか」

マスコミ・メディア業界では、多くの企業のコンプライアンス担当、または関連教育部門の方々が、このようなお悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

マスコミは大衆伝達であり、メディアは大衆伝達の手段です。インターネットの登場により、マスコミ・メディア業の情報発信は多様化しています。特にSNSは、不特定多数に向けた新たな伝達媒体になっています。

直接的に情報を扱うこの業界では、情報の入手・加工・保管・発信、そのすべてのプロセスにおいてリスクマネジメントが必要です。従業員に向けたコンプライアンス教育もその一つ。

そこで今回は、多様な情報発信が行われるマスコミ・メディア業におけるコンプライアンス教育の在り方について解説します。コンプライアンスを実現するために、どのような重点教育分野を設定し、どのような教育企画を作っていけばよいのか、具体的かつ効果的な方法をご紹介します。


1. マスコミ・メディア業におけるコンプラアインス上の注意点とは

マスコミ・メディア業には、放送、新聞、出版、広告などの事業者があります。いずれの事業者も、情報やコンテンツを作り、発信しているという点で共通しています。発信する情報やコンテンツには、自らが創作し、著作権を持つ著作物があります。また、第三者が著作権を持つ情報やコンテンツを利用することもあります。

情報発信に関連して、2016~2017年にかけて発覚したDeNAのキュレーション問題では、数多くの著作権侵害の問題が指摘されました。その影響もあり、その後、自社が所有する情報や意見を中心にメッセージを伝達する「オウンドメディア」によるコンテンツや情報発信を行う企業が増えています。

参考)
DeNA、村田マリ氏らを処分–キュレーション問題の調査報告書を公表(CNET Japan)
https://japan.cnet.com/article/35097992/
オウンドメディアとは何か、明快に分かる! (Web集客の開花塾)
https://web60.co.jp/owned_media.html

第三者が著作権を持つ情報やコンテンツを利用する場合は、著作権者の許諾を得るか、著作権法に則した引用を行う必要があります。したがって、自らの著作物を創作する際に第三者の著作物を取り扱う事業者は、著作物とは何か、どうすれば適法に利用できるかをよく理解しておかなければなりません。特に、引用の適法性については微妙な判断を要することも多く、トラブルになりやすいので注意が必要です。

マスコミ・メディア業は、インターネットの登場により、IT機器を用いた業務が当たり前になっている業界です。また、勤務形態も多様です。外勤記者や取材関連のスタッフは社外にいることの方が多いでしょうし、職種にもよっては在宅勤務やサテライト勤務も広がりつつあります。

こうした多様な条件下にいる従業員に教育を提供する手段についても、検討が必要です。


2. 重点教育のサンプル例

それでは、マスコミ・メディア業のコンプライアンスを実現するための重点教育のサンプル例をご紹介します。

まず、コンプライアンス対策においては、トップの姿勢が社員の意識に強く影響します。トップが全社員に対し、自社のコンプライアンス方針に関する明確なメッセージを、定期的に発信することが重要です。

そのうえで、全社員の「問題発見力」を鍛えます。これは、コンプライアンス問題を発見し、適切な初期対応を行うために必須となるスキルです。さらに幹部社員は、発見したコンプライアンス問題を分析し、適切な措置を行うための「問題解決力」を学ぶ必要があります。

問題発見力は、全社員に必要な基本的な知識なので、eラーニングによる学習がおすすめです。幹部社員の問題解決力強化には、eラーニングに加え、集合研修で実際のコンプライアンス問題を事例として議論しながら学ぶ「ブレンディド・ラーニング」が効果的です。

また、ネットアンケートを活用して啓発教育と課題分析を行う方法もあります。アンケート結果に基づいて、現実的かつ具体的な課題に対して重点教育を行うことができます。

マスコミ・メディア業の社員は一定程度のITリテラシーを持っていると考えられるので、ネットアンケートやeラーニングによる重点教育は効果が期待できます。また、端末さえあれば勤務形態も勤務場所も問わないので、多様な働き方をしている社員にも、等しく教育機会を提供することができます。

次に、個別の法分野の重点教育についてです。コンプライアンスの潜在的なリスクは状況により変化します。そのため、タイムリーに実態を把握するためには、先に挙げた定期的にネットアンケートを実施する方法が非常に有効です。

部門や期間単位で、複数のアンケート結果を比較分析することにより、コンプライアンス問題が発生する潜在的なリスクを見つけることが可能だからです。その結果に基づき、潜在的なリスクに対して、詳細の調査や啓発教育を行うことができます。この関係を図にすると次のようになります。


(この関係図については、無料eBooK「コンプライアンスが面白くなる!~ゲーミフィケーションで実践する教育の仕組みづくり」の第4章で詳しく解説しています)

2-1. 全社員の重点教育分野

全社員に重点教育が必要な法分野としては、次の例が考えられます。

(1) 情報セキュリティ関連法(個人情報保護法を含む)
マスコミ・メディア業は、個人情報を含む多様なデータを取得して分析し、情報発信に利用することが多い分野です。そのため、情報セキュリティの教育が重要になります。また、Webメディアでの情報発信が増えているので、ネットセキュリティに対する適切な理解とコンプライアンス教育が必要になります。

個人情報については、もちろん法律に準拠して取得・活用する必要がありますが、そもそも本当に個人を特定する情報が必要なのかどうかを検討することも大切です。個人方法保護法の改正により、匿名化された個人情報(匿名加工情報)は、取得した個人の許可無く使用することができるようになっています。匿名加工情報とは、特定の個人が識別できず、元の個人情報が復元できない情報です。

むやみに個人情報を取り扱ってリスクを負うよりも、個人情報を匿名加工情報にする方法や、従来個人情報で行っていた分析やサービス開発を匿名加工情報で行う方法を考えた方が、合理的な場合もあります。個人情報保護法に関する教育と並行して、こうした工夫を企業として行っていくことも、リスクマネジメントにつながるでしょう。

参考)
情報セキュリティ対策の必要性(総務省)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/business/executive/01.html
個人情報保護法の改正によって、匿名化された個人情報の取り扱いが新設されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか?~匿名加工情報について~ (クレア法律事務所)
https://www.clairlaw.jp/qa/cat446/post-91.html

(2) パワハラ防止法
パワーハラスメント(パワハラ)の防止はコンプライアンスの重要事項のひとつですが、パワハラか否かを判断する基準が曖昧なこともあり、対策が難しい分野です。

パワハラ防止については2019年5月、関連する5つの法律が改正され、大企業は2020年6月以降、中小企業は2022年4月以降、パワハラ防止対策が義務付けられました。これに伴い、2020年1月、厚生労働省からパワハラに該当する例と該当しない例を示した指針が明示されました。

この指針により、一定のガイドラインは示されましたが、具体的なビジネスシーンに当てはめると、パワハラに該当するか否かの判断に迷う事例も多いのが実情です。したがって、企業は以下のような対策を自律的に行っていかなければなりません。

・自社のコンプライアンスとしてのパワハラに対する方針を定める
・上記に基づいて具体的なビジネスシーンに対する基準を明確する
・その内容を啓発する全社員教育を行

参考)
事業主が職場における優越的地位を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

(3) 著作権法
マスコミ・メディア業は、自ら情報やコンテンツを創作し、積極的に発信します。そのため、発信する情報やコンテンツの中に、第三者の著作物が不法に使用されていないかなど、著作権法に違反しないための対策を講ずる必要があります。

したがって、著作権法が保護する著作物とは何か、第三者の著作物を法律に基づき、適切に利用するにはどうすべきか、という著作権法の基本をよく理解する必要があります。その教育手法について、事項で詳しく解説します。

2-2. 著作物を有効活用するための重点教育

著作権法については、以下の記事で、eラーニングで基礎知識を学んだ後、Q&A作成演習を行い適法な活用方法を学ぶプログラムをご紹介しました。このプログラムは、マスコミ・メディア業でも有効ですので、ぜひご参照ください。

さらに、情報やコンテンツを創作したり、編集する部門では、微妙な判断が必要となる引用について、具体的な事例から学ぶ方法が有効です。たとえば、次のような方法が挙げられます。

・Step1:著作物の分類
自社が社外に発信している情報やコンテンツを事例学習の素材にします。まず、それぞれの情報やコンテンツを、自社が創作したものと、第三者が創作したものに分類します。著作権法で保護される著作物には「創作性」が必要です。そこを見極めるために、分類した情報やコンテンツ一つひとつについて、創作性があり、保護される著作物であるかどうかを判断します。

・Step2:許諾条件の確認
第三者が著作権を持っている著作物については、個別に許諾を取って利用する方法と、引用のように著作権法に基いて利用すれば個別に許諾を取らなくてよい方法があります。Step2と3では、それぞれのパターンを理解するためのワークを行います。

まず、Step1で分類した「第三者が創作した著作物」から、個別に許諾を取って利用している著作物をピックアップし、著作権者からどのような条件で許諾を取っているかを確認します。

著作権は、複数の権利の束(複製権、公衆送信権、翻訳権、翻案権など)です。そのため、個別に許諾を取るには、著作権法をよく理解したうえで、どの権利の許諾をどのような条件で受けるか、その対価も含め、著作権者と交渉する必要があるのです。

・Step3:適法利用の確認
次に、引用です。著作物を引用する場合は個別の許諾は不要ですが、著作権法が定める引用の条件(公表された著作物が対象、明確な区分が必要、主従の関係が必要など)を満たす必要があります。そこで、自社が引用している著作物一つひとつについて、条件を正しく満たしているかどうかを確認します。

以上のプロセスを通じて、著作物の基本と適法に利用する方法を具体的に学ぶことができます。引用については、自社のコンテンツ以外にも、公開されている他社のコンテンツを素材として、ケース教材や事例問題を作ることもできます。自社や他社の事例の活用方法については、以下のブログを参照してください。


このような事例を活用した学習は有効ですが、適法な著作物の利用になっているか否かについては、判断に迷う微妙なケースが多いのが実情です。そこで、この分野の法律的な理解に役立つ本をご紹介します。

書名:Q&A 引用・転載の実務と著作権法(第4版)
著者:北村行夫、雪丸真吾編著
出版:中央経済社
⇒中央経済社のサイトで詳細を見る

この本は、著作権法に詳しい合計12名の弁護士が、Q&A形式で、引用の基本から許可を得ずに著作物を利用できる場合まで、具体的な事例を用いて解説しています。質問数は143に上ります。

たとえば、誤解が多い引用とその量の関係について、次のようなQ&Aと法的な根拠が解説されています[1]

Q62 引用と利用の率
 他人の著作物を100パーセント利用しても、引用になることはありますか?。

A あり得ます。

解説
このような場合は、量的に見ると従たる利用とは言えないとの疑問を生じるかも知れません。しかし、例えば、俳句の批評のためには、通常の俳句の表現をすべて利用しなければなりません。適法な引用において、従たるものとして利用される著作物の量は、一律には決まりません。結局、批評その他の目的に必要な限度の量(率)であるか否かという具体的な事情に基づいて決せられます。

Q63 引用と利用の量

他人の著作物を批評するときに、自分の著作物の分量が少ないと引用にならないのですか?。

A そんなことはありません。

解説
他人の著作物に対する寸鉄の評言が引用にならず、冗長な批評なら引用になるということはあってはならないのです。適法な引用において、利用する側の表現と利用される著作物との多寡は一律には決まらず、結局、具体的な事情のもとで、批評その他の目的にとって必要な限度の量の利用か否かによって、決せられます。“

[1] 原典:北村行夫、雪丸真吾編著、「Q&A 引用・転載の実務と著作権法(第4版)」、中央経済社、2016、P68-69.


3. まとめ

マスコミ・メディア業には、放送、新聞、出版、広告などの事業者があり、いずれの事業者も、情報やコンテンツを創作し、発信しているという点で共通しています。

インターネットの登場によって情報発信の仕方が多様化していることもあり、一定程度のITリテラシーを持つ社員が多い業界と言えます。そのため、コンプライアンス教育には、ネットアンケートやeラーニングを用いた学習が効果的です。

重点教育のサンプル例について、全社員向けとしては「情報セキュリティ(個人情報保護法を含む)」、「パワハラ防止法」、「著作権法」の教育が有効です。情報やコンテンツを創作する業務部門においては、特に著作権法の実践教育が重要です。

そのため、基礎知識をeラーニングで学んだ後Q&A作成演習を行うブレンディッド・ラーニングに加えて、自社の情報やコンテンツを素材とし、著作物の分類、許諾条件の確認、適法利用(引用)の確認を行う事例学習をご紹介しました。

特に、引用については、微妙な判断が必要なケースも多いので、著作権法の専門家が共同で執筆したおすすめの本をご紹介しました。

今回ご紹介したマスコミ・メディア業の特徴に合わせたコンプライアンス教育の取り組みを参考に、自社の適切なコンプライアンスの実現に取り組んでください。

<参考情報>
・知っておきたい、業界分類一覧と解説(マイナビ)
https://shinsotsu.mynavi-agent.jp/knowhow/article/industry-list.html
・何が違う?「マスコミ」と「メディア」の違い (スッキリ)
https://gimon-sukkiri.jp/masscommunication-media
・DeNA、村田マリ氏らを処分–キュレーション問題の調査報告書を公表 (CNET Japan)
https://japan.cnet.com/article/35097992/
・オウンドメディアとは何か、明快に分かる! (Web集客の開花塾)
https://web60.co.jp/owned_media.html
・情報セキュリティ対策の必要性(総務省)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/business/executive/01.html
・個人情報の保護に関する法律(第2条定義9項)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000057#5
・個人情報保護法の改正によって、匿名化された個人情報の取り扱いが新設されたと聞きましたが、どのようなものでしょうか?~匿名加工情報について~ (クレア法律事務所)
https://www.clairlaw.jp/qa/cat446/post-91.html
・事業主が職場における優越的地位を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf
・パワハラ防止法指針 就活生ら対策義務見送り 公募意見反映されず(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019122490070253.html
・かんぽ不正、黙認の風潮 調査委報告、パワハラ横行認定:一面(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2019121902000063.html
・「就活パワハラ防止に不十分」 就活生ら、厚労省指針に(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52884710T01C19A2CR0000/
・職場のパワハラ具体例、指針案を了承 厚労省分科会 (産経ニュース)
https://www.sankei.com/life/news/191120/lif1911200043-n1.html
・パワハラ防止 6月から 大企業で義務化、中小は22年4月(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201910/CK2019102902000132.html
・パワハラ、企業名公表と違反行為明示 抑止へ法成立(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45393890Y9A520C1EE8000/
・パワハラ「該当しない例」示す 厚労省が指針素案(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51238250R21C19A0EE8000/
・著作物の引用の要件・ポイント (弁護士法人クラフトマン )
http://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/chosakuken/index/inyou/

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