傾聴とは、相手の話を注意深く、共感的に「聴く」ことです。
「自分の話をじっくり聴いてもらい、今まで頭の中だけでは整理できなかったことがクリアになった」
「相手の話を最後まで聴いたことで、相手から信頼されるようになった」
こんな経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
傾聴は、良好な人間関係を築くための大切なコミュニケーションスキルの一つとして「社会人に必要な能力」とも言われており、ビジネスシーンでも役立ちます。
本稿ではこの傾聴について解説し、仕事でどのように活用できるかを考えていきます。
1.傾聴とは
傾聴とは、相手の話を注意や関心を持って共感的に聴くことです。そうすることで、聞き手は表面的な内容だけではなく、内に込められた相手の思いをくみ取り、相手を深く理解することができます。一方、話し手の側も注意深く話を聴いてもらうことで、自分を受け止めてもらえたと感じ、自己重要感を高めたり、自ら気づきを得たりすることができます。
元々はカウンセリングの技法として提唱されましたが、日常やビジネスの場でもコミュニケーション手法として活用することで、より良い人間関係や信頼関係の構築に大いに役立ちます。
2. 「社会人基礎力」としての傾聴
2006年、経済産業省は産学の有識者による委員会で「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を「社会人基礎力」として定義づけました。
社会人基礎力は「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3つからなります。その中で、傾聴は「チームで働く力」に位置付けられ、多様な人々と一緒に働くうえで重要とされています。
◆社会人基礎力
出典)経済産業省「社会人基礎力」
http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/
3.ビジネスシーンでの傾聴
社会人基礎力として必要な傾聴を実際に活かしていくにはどうしたらよいでしょうか。傾聴の目的と効果、活用について考えてみましょう。
(1)傾聴の目的
傾聴の目的は次のように考えられます。
・話し手を理解する
・話し手の気づきを促す
・困難な問題を解決する
(2)傾聴の効果
傾聴には以下のような効果があります。
・話し手を深く理解できる
・理解しようとする聞き手の態度が話し手の心を開き、聞き手との信頼関係を築く
・話すことで話し手は頭の中を整理でき、問題解決につながる
(3)傾聴の活用
傾聴はビジネスシーンで次のように活かすことができます。
・職場の人間関係
一つの職場の中でも上司や部下、また正規・非正規などさまざまな立場の違いがあり、働き方も異なります。立場が違えば考え方も違ってきます。こうしたとき、自分の立場から一方的に話をするのではなく、違う立場の相手を理解しようと傾聴することが相互理解に役立ちます。傾聴することで人間関係を良好にし、結果として仕事の成果を高めることになります。
たとえば、上司は部下の話に対して傾聴、つまり丁寧に聞き丁寧に返答することで信頼されるようになり、良い関係性を築くことができます。また、普段は部下が言いたくても言えない意見を聞くことで、業務や経営の改善につながるアイデアを得られるかもしれません。
・顧客との関係
不満を抱いている顧客に対しては傾聴しているという態度そのものが大切です。そして傾聴することで、どのような点に不満を持っているのか、どうして怒っているのかが把握でき、次の対応や新しいサービスに活かしていけます。不満を感じ、良くない印象を持っていた顧客も傾聴されることで自分は受け止められたと感じ、熱心な顧客へと転換するかもしれません。
・営業や交渉先との関係
相手が何を求めているのか、注意深く話を聞くことで相手の真のニーズを理解できれば、的確な提案ができます。結果的に売り上げ増や業績の向上へとつながっていくでしょう。
このように、どんな立場の人にとっても傾聴することは有効なコミュニケーション手段だといえます。
4. 傾聴のポイント
傾聴は、ただ話をよく聞いていればよいのでしょうか。いえ、相手に「聞いてもらっている」と感じてもらうことも大切な要素であり、それにはちょっとしたポイントがあります。いくつかご紹介しますので、参考にしてみてください。
・相づちをうつ、頷く、表情で答える(笑顔、しかめるなど)
こういったしぐさの反応があるだけでも、話し手は「肯定的に聞いてくれている」と安心して話すことができます。
・相手の言葉を繰り返す(聞かせ返し、オウム返しの技法)
例えば、話し手が「部長の方針に不満があるんだよね」といったときに「あぁ、不満があるんだね」とそのままオウム返しするだけでもOKです。
・相手の言葉を要約して繰り返す
オウム返しと同様ですが、相手の話が長い場合は要約して、「○○ということなんだね」と返すとよいでしょう。
・適切な質問を入れて話を引き出す
話し手は、質問されることで相手が何を知りたがっているのかがわかり答えることができます。また、話の全体像がどうなっているのか、話し手・聞き手双方とって整理するのに役立ちます。
・遮らない、話の腰を折らない、批判しない、アドバイスをしない、意見を言わない
異なる考え方や反対意見があっても、まずは相手の話を聞き切ることが大切です。一方、共感できる部分は共感しつつも、できない部分は無理に共感したふりをしないことも大切です。
このように、ただ受動的に耳を傾けるだけでなく、反応や質問などを適切に挟み、コミュニケーションをとることが大切です。

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5.まとめ
傾聴とは相手の話を注意や関心を持って共感的に聴くことです。
傾聴の目的
・話し手を理解する
・話し手の気づきを促す
・困難な問題を解決する
傾聴の効果
・話し手を深く理解できる
・理解しようとする聞き手の態度が話し手の心を開き、聞き手との信頼関係を築く
・話すことで話し手は頭の中を整理でき、問題解決につながる
傾聴の活用
・職場の人間関係を良好にし、さらに深い信頼関係を築くことができる
・顧客との関係を改善し、より良い関係構築のきっかけとなる
・営業や交渉を円滑に進め、成功させる
傾聴の「相手に寄り添い共感的に話を聴く態度」は信頼関係を構築する鍵です。深い信頼関係はよりよい成果を生み出します。ぜひ実践してみてはいかがしょうか。